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メディアグランプリ

知らん男と全裸で鉢合わせして自覚できた、書くことの意味


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:前田光(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
その格安ホテルにチェックインして、共同シャワールームに最初に入ったとき、これはちょっと、まずいんでないの? と嫌な予感がしたのだった。
 
20年以上も前に中国の地方都市を旅行したときのことだ。
どこに行ったのかも、誰と行ったのかももはや思い出せないが、寝台列車に揺られてうとうとと夜を明かした後にリュックを背負って一日中歩き回ったので、ホテルに着いたときにはへとへとに疲れ切っていた。
その日のベッドを無事確保してホッと一息ついたら、次にしたくなるのは旅の汚れを落とすことだ。
ああ、早くさっぱりして眠りたい。
フロントで「シャワールームはどこ?」と尋ねたところ、その脇の細い通路を道なりに進むと、女性用と男性用の浴場があるという。
 
そこで早速、石鹸とタオルを持ってその通路を進んだが、途中で二手に分かれていて、どっちに行けばいいのか分からなくなった。
通路沿いに行けばいいって言ってたじゃないか、と頭の中で舌打ちしながら水音のする方に進むと、まっすぐに進む方と手前で曲がる方の二手に分かれていた。
どちらかが男性用の浴室でもう片方が女性用のようだったが、肝心の表示が出ていない。
しょうがない、ヤマ勘を張ってどっちかを覗いて、男の人がいたら引き返せばいいやと思って近い方を覗くと、幸いそちらが女性用だった。
だが目に飛び込んできたのは、シャワーを浴びている女性客たちの姿だった。
通路を曲がったら扉も脱衣場も仕切りも何もなくて、全裸の女性がずらりと一列に並んで体を洗っているのだもの。それが同性でも驚きに値する。
 
とはいえ逆の状況なんて、もはや考えたくもないから、勘が当たったのは大変ラッキーだった。
だがこれは、男の人が間違ってこっちに入って来る可能性もあるってことだ。
さっさと浴びて部屋に帰るに越したことはないぞと思いながら頭を洗っていると、案の定通路の向こうの方から男性の話し声が近づいてきた。
 
おーい、こっちじゃないぞ、遠い方がアンタたちが行くべきところだぞと念じてはみたが届くはずもなく、数秒後、
 
「ちょっとアンタたち! ここ女用なんだよどこに目をつけてんのよ!(意訳)」
「とっとと出ていけこのブタ野郎!(意訳)」
「ふざけんなこの×××××(訳出不能)」
 
といった、いくつもの罵声が同時発生的に浴室に響き渡った。
男たちは、
 
「間違っただけだ」
「この場所が分かりにくいんだよ」
 
などとしきりに釈明しながら追い出された。
 
女性たちは男たちが去っても口々に「他妈的(「くそったれ」的な中国語の罵り言葉)」を連発しながらプリプリ怒っていた。
ああこれこれ、この怒りに基づく瞬発力なんだよなあ、中国人女性に備わっていて私になくて、常々羨ましいと思っているものは、なんて変に感心しながら彼女たちの悪態に耳を傾けていた。
そう、私は怒りを感じるべきことが起きてしばらく経ってから怒りが湧いてくるタイプ、あれってやっぱりおかしくない? と遅れて腹が立つタイプなのだ。
 
その翌日、一日中外を歩き回ってやっぱりクタクタで帰ってきた私はシャワーを浴びに例のシャワー室に行った。
残念ながらこの日、先客は誰もいなかった。
コンクリート打ちっぱなしの殺風景なシャワー室でただ一人、私は昨日の3割増しのスピードで体を洗い始めた。
ところが、頭を洗い、体を洗い、タオルで体を拭いて、さああとは服を着るだけだ、という段になって、人が近づく気配がしたと思ったら次の瞬間、全裸の私の目の前に、白人男性が現れた。
 
年齢はぱっと見たところ30代、こんなオンボロホテルに泊まるくらいだから、私と同じ留学生かバックパッカーだろう。
男性は「鳩が豆鉄砲を食らったような」という形容詞はこういう時に使いますという見本のような顔をして直立不動でフリーズしていた。
私は私で、「あなたが間違ってここに入ってきたのは分かりますから大声を上げるつもりも罵るつもりもないのですが、とりあえずびっくりしてどうしたらいいかよく分かりません」という状態に陥っていた。
 
すると次の瞬間、男性は能面のような顔をして首を横に振りながら、
「Oh……」
と一言つぶやくと、
その次に回れ右をしながら二回目の
「Oh……」
を漏らし、
そのまま元来た道を、首を振りつつ、
「Oh……Oh……Oh……」
とブツブツ言いながら戻っていった。
 
「Oh……」ってアンタ、それを言いたいのはアタシの方だよ、スミマセンとかシツレイシマシタとか、何か言いようがあるだろうがと思ったが、彼は別にわざとやったわけではなくて、つまりこれはアクシデントなわけで、悪いのは表示を出していないホテルなわけで、下手に謝ると自分が悪いってことになるわけで……だからこそ「Oh……」の連発になっちゃったのかなあと後から考えたりもしたが、やっぱりモヤモヤは消えなかった。
 
つまり私は、わざとじゃなくてもアクシデントでも、見たのは見たのだからなんか言えや何ならちょっとくらい謝れや! 何やその「オレも被害者なんで」みたいな「Oh……」は! と文句の一つも言いたかったし、ホテルにも「表示ぐらい出しとけや! 知らん男に裸見られただろうが!」とクレームを付けたかったのだ、本当は。
 
だが、もしかしたら私が何かを書くのは、口にしたくてもできなかったことや、ああすればよかったという後悔の念みたいなものが原動力になっているんじゃないかと、当時のことを振り返ってふと気づいた。
何かが起きたときに感情の折り合いがその場でついてしまったら、私はすっきりしちゃって何も書かないかもしれない。
そう自覚したとき、すぐに怒りを出せないようなうじうじしたところがある性格でよかったじゃないかとつくづく思ったのだ。
長所と短所は紙一重、裏表の関係だ。
だとしたら、私もあなたも、性格の中であまり好きでない部分こそに、実は宝が眠っているのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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