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虫嫌いな私が女郎グモと過ごした4ヶ月


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木麻子(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
 
 
私は虫が苦手です。
好きな人には申し訳ないのですが、彼ら独特の姿形も、色も、何もかもが生理的嫌悪につながってしまうのだから仕方がないのです。
子供の頃は道端数メートル先にいる毛虫を見ただけで、もうその道はしばらく通れなくなっていたし、家の中に小さなクモが出ただけでも、親に助けを乞いオロオロと逃げまわっていました。
 
しかし一人暮らしの今ではそうもいかず。
家の中で虫を見つけたからといって、泣こうが喚こうが誰も助けてくれないわけで。
嫌々ながらも素早く処理する技だけは磨かれて、それでも虫が平気になる訳でもなく、できるだけ関わり合いにならないようにと願って日々を過ごしていました。
今年の9月までは。
 
我が家の玄関と門の間は3メートルほど離れており、植木や花壇の横を通過するようになっています。
その外界へと通じる唯一の通路の真ん中、地上から170センチ程上空の位置に、「それ」は突如現れました。
見る者へ恐怖を与える、黄色と黒の警告色の八本足、キラキラと輝く巨大な巣を張り巡らせ、まるで自分こそ先に住んでいたかのように振る舞う、巨大なクモがそこにはいました。
 
これでは家から出られないではないか……。
いつの間にか出来上がっていた巨大な巣の中央に鎮座するクモを眺めながら、私は頭の片隅でそんな事を考え、一度家の中へ引き返しました。
  
「とりあえず、一旦落ち着こう」
そう思い直し、少し冷静になった私は気がついたのです。
庭には勝手口があるということを。
その勝手口からも外には出られるし、外からはちゃんと鍵もかけられるのです。
玄関はもう封印しよう、これからは勝手口を活用して生きていこう。
そう息巻いて庭へ飛び出した時、そこには更なる絶望が広がっていました。
勝手口へ続く庭の小道には、目線の高さに巨大な巣が、すでに張り巡らされていたのです。
そしてその中央には、正門へ続く道にいたのと同じ種類のクモがやはり鎮座しているのでした。
前門のクモ後門のクモ、進退窮まるとはこの事です。
  
家に籠城できるものなら、きっとそうしていたでしょう。
でも残念なことに、こんなことで仕事を休むわけにもいかないですし、クモが怖いというだけで気楽に呼び出せるような家族も友人も近くにはいないのです。
  
私は覚悟を決め、門前にいるクモを睨みつつ、「落ちてきたらつぶすから!」と、クモへの牽制も忘れず、小走りでクモの下を潜り抜けることに成功しました。
 
無事に突破できたことで気が大きくなったのか、思い返すとフツフツと、クモへ対する怒りにも似た感情が押し寄せてくるのです。
なぜ、私が、あんな小さな虫に右往左往しなくてはならないのか。
家に帰ったらホウキで巣なんか取り払ってやろう。追っ払ってやろう。家主は私だ。
 
もうすっかり暗くなった家路を、私はトボトボ歩いていました。
クモの件を会社で話した時、「クモの巣を壊した主人公が、クモから恨まれて不幸になるお話があったよね」なんて事を同僚から聞かされたからです。
迷信だとは思いつつも、そんな話の後にクモの巣を壊せるほどの強い心を持ち合わせていない私は、月明かりに照らされて黒いシルエットとなった空中のクモに向かって「落ちてきたら許さない!」と牽制しつつ、家に急いで駆け込みました。
 
どうしたものかと対処法を検索していると、それらが女郎グモであることが判明しました。
特に毒はなく、害虫を捕らえてくれる益虫である事、寿命は短く12月には死んでしまう事。
つまり4ヶ月我慢すれば、何もせずともいなくなるという事なのです。
こうして、とても嫌ではありますが、クモ達との共生を覚悟しました。
 
朝晩、クモの下を通る度に牽制の言葉を投げかけ、洗濯物を庭に干すたびに、そちらのクモには何故そんな場所に巣を作ったのかと恨み言を投げかけ……。
  
そうして1ヶ月も過ぎた頃、クモ達に投げかける言葉が恨み言や牽制ではなく、普通の挨拶に不思議と変わっていました。
あれだけ嫌だったクモも、毎日声をかけていた事によって多少なりとも情が移ったのか、11月頃にはすっかり「大人しい隣人」のような感覚になっていたのです。
 
  
9月からずっと、毎日のように監視をしてきたわけですが、その間にクモ達にも色々なドラマが巻き起こりました。
門の前にいるから「門前さん」と名付けたクモは、いつの間にか門前さんの5分の1程の大きさのクモと同居していました。
調べたところ、これは女郎グモのオスであり、つまり門前さんはいつの間にか結婚していたのです。
女郎グモは交尾が終わるとオスを食べてしまう事が多いようなのですが、門前さん夫婦は仲良しのようです。
一方、庭にいるから「大庭さん」と名付けた方は、ずっとひとりでした。
もうすでにオスを捕食した後なのか、それとも独身だったのかはよくわかりません。
 
たった2ヶ月で相手を見つけて子を残すなんて、大変過ぎる……。
そんな事を思っていた12月のある寒い朝、大庭さんは姿を消しました。
 
そうか、12月には死んでしまうと書かれていたな。初めて見た時は怖いと感じたけど、いなくなると少し寂しいな……と、空っぽの巣を片付けながら思いました。
  
門前さんはどうなっただろう?
私はすぐに門の方へ向かいました。
変わらず門前さんはいましたが、オスはすでに消えていました。
きっと冬の寒さを乗り切るために、門前さんがいよいよ捕食したのでしょう。
自然というのは、こんなに厳しいものなのか……。
  
12月29日現在、門前さんはまだ頑張っています。
苦手だったクモの一生を、奇しくも近くで見続けた事で、虫に対して考えが少し変わった気がします。
好きにはなれそうにないですが、嫌いなものでも逃げずに向き合うことで、別の視点になれるのかなと、2匹のクモが教えてくれたのです。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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