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神さまのテストに合格した召使いの話し

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:香山ハク (ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
 
 
人はそれぞれ使命を果たすためにこの世に生まれてくるという。
もしそうならば、わたしの使命は召使いだ。
 
雪が降った朝、紹介アプリから連絡が来た。
寝ぼけ眼でスマホを握りしめ、小さな画像を凝視する。
丸くて大きな瞳。キュッと締まった顎のライン。ふっくらとしたボディ。艶がよく、若く、存在に透明感がある。プロフィールにはなんとご両親の写真まで添えられているではないか。良家のおぼっちゃまらしい。完全にノックアウトだった。
 
「すぐそちらに行きます!」返信ボタンを押しながら、彼を招き入れても大丈夫なように急いで部屋を整え、暖房をMAXに設定し指定された場所に向かった。
あのときのドキドキ感は今でも忘れられない。「きっと運命なんだ……」ついそんな言葉を口走ってしまうほど、わたしのご奉仕アンテナは確かなものだった。
 
1時間後、予想通り彼を部屋に連れて帰ってきた。
野生味ある雰囲気とは反対にシャイなのかもしれない。部屋の隅でおどおどしている。あたりまえだ。さっき初めて逢ったばかりだ。
しばらくすると緊張して疲れたのかフローリングに横たって仰向けに眠ってしまった。
すーすーと春風のような寝息が聞こえてきた。小さな顎をそっと撫でる。心地よさそうに喉をごろごろ鳴らす。ピンクの肉球や精巧な爪がついた手はとうてい神さまが作ったとした思えないほど愛らしい。
やっと逢えた。デリケートで生命力に溢れていて、数ヶ月前までこの地球上に存在していなかった尊いいのち。わたしが全身全霊で愛をそそげる存在がやっと現れた。
 
もっと近くで見たい。寝ている彼のそばにピッタリとくっつき、床に寝転んだ。窓の外は真っ白になっていた。
眠っている彼の鼻を触る。冷たい。急にピクピク動く。まだ弱々しい髭も、短いまつ毛もビロードのような体毛もなにもかもすべて尊く、その存在はわたしにとって神に近い。
決めた。わたしは今日からキミの召使いだ。神さま、小さないのちをありがとう。
 
出逢って数時間で一緒に暮らすことになった彼に名前をつける。別につける必要はないけれど、ないと色々めんどくさい世の中だ。
雪の白い印象とふにゃふにゃした感触から『おもち』と呼ぶことにした。
 
おもちは1ヶ月で体重が倍になった。3ヶ月目で4.5キロ。これには医師も驚いていた。
しっかり食べモリモリとうんちをし、観葉植物を倒しながら元気よく部屋中を走り回った。そのたびに召使いはひざまづいて片付けた。
怪我などしないよいうミニマスト並みに断捨離し、キラキラ光るオモチャを何個も試してはそのほとんどを気に入ってもらえず処分した。
茹でたてのささみと無添加の煮干しを食べさせ、全身ブラッシングをしたあと毎日汗だくになるまで一緒に遊んではサロンパスだらけになった。嬉しかった。目が合うと途端にとろけてしまいそうで幸せってこう言うことだと思った。
 
ある朝、おもちの呼吸がおかしい。ゼーゼーと苦しそうに喉になにかつっかえているように見える。けれど吐き出すことができない。背中を撫でてあげると体温が低くなっている。
「おもち、どうしたの?」声をかけても反応がまるでなく、目も虚ろだ。
ヤバい! 反射的に病院に電話をかけ、お財布を握りしめてダッシュで部屋を出た。
病院まで走ったら10分だ。キャリーバッグの中でぐったりした身体が弱々しく動く。だいじょうぶ、おもち。わたしが助けるよ。
 
走りながら頭の中がグルグルした。一体どうしちゃったんだろう。間違って何か食べたのだろうか? テーブルに置いてあったピアス? それともただの風邪?
どうしよう。考えても考えてもわからない。心臓がバクバクする。
 
「影が出ています」担当医が言った。
レントゲンに写ったおもちの肺は真っ白だった。喘息で肺炎を起こし、アレルゲン反応が全身にまわった危篤状態だという。
「呼吸不全になりかけています。緊急入院してください」
 
眩暈がした。どうして? どうしてこんな事が起きるのだろう。なぜ、幼いおもちが苦しまなくちゃいけないの? わたしが何か悪いことをしたのだろうか。食事がよくなかったのか。モンプチかつお味がダメだったのか。わたしは失格なのだろうか。紹介アプリで運命を決めるなんて浅はかだったのか。神さまなんて本当はいなかったのか。
 
違う! と心の声が聞こえた。
これは試験だ。わたしは今、神さまから試されている。
役目を全うし、いのちを守りきる召使いのテストなのだ。
 
病室の奥で透明なカプセルに入れられ、ぐったりしているおもちが遠くに見えた。
「治療法はひとつです」
主治医がなにやら筒状のモノを持っている。ペットボトルくらいの形状の吸引器だった。これを使って喘息を軽減するらしい。
この治療法は喘息持ちの人間の子どもに使われているらしく、おもちの生命がかかっている。今のところこれ以外なにも施しようがないらしい。新薬を待つしかないのだ。
 
受付で吸引器をもらって重い足取りで病院を出た。レシートには見たこともない数字が並んでいた。ずっと通院するのかな。そもそも完治するんだろうか。薬代はどれくらいかかるのだろう。保険に入っておけばよかった。こんなタイミングでお金の計算をしてしまう自分が情けなかった。
 
おもちがいない夜を初めて過ごした。一睡も眠れなかった。
わたしはひたすら祈った。生きていてくれるだけでいい。それだけが望みだ。
いのちさえあれば、医療が発達してもっといい治療法が出てくるかもしれない。
お金なんてなんとかする。わたしが全力で守るんだ。
 
神さまどうか力をかしてください。
おもちが生きてさえいてくれたら他にはなにもいらないんです。
 
以来、おもちは喘息のひきつけを起こすこともなく元気に育ってくれている。
奉仕の身であるわたしは、徹底した健康管理スキルを身につけ、喘息用の呼吸器を楽々使いこなし、気まぐれに抱っこを要求されても6キロの肢体をヒョイと肩にのせてどこまでも歩けるようになった。
神さまのテストに合格した召使いの使命はこれからもつづく。
永遠にわたしの愛をそそぐのだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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