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(仮)吾輩に名前をつけた代償


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:mumi(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
かれこれ20年以上の付き合いになるだろうか。
いつものように伸びをした後、首をぐるりと回して少しでもヤツに抗おうとする。
そんなことでは到底敵わないのは目に見えているのだが、それでも何かせずにいられないのは悲しい性である。
 
中学生時代。置き勉とは無縁の真面目な学生だった私は毎日6〜7kgの荷物を背負い登下校していた。そのうち徐々に肩に違和感を覚えるようになり、今日に至る長までヤツとは長い付き合いとなっている。
 
「肩こり」
私の拙い文章を読まれている皆さんの中にも、一定数の方が悩まれたことのあるテーマでは
ないだろうか。
肩こりという言葉・概念は日本独自のものだと耳にしたことがある。
「え、海外の人って肩こりにならないの?」と思わず声に出して驚いてしまったが
よくよく調べてみるとそういうことではないらしい。
肩が張る感覚や痛み自体は感じるものの、「肩こり」という概念がないために悩む人が少ない、という話らしい。来日して「肩こり」という言葉を知った途端に「これが肩こりか!」と悩まされるようになったなんていうエピソードまであるようだ。
日本での歴史はどうなんだろう。
諸説あるが「肩がこる」という言葉については夏目漱石が最初に使ったと言われており、
江戸時代以前の日本にはそもそも「肩こり」という言葉すら存在していなかったという説が有力とされているようだ。
夏目漱石と言えば、「めちゃくちゃ」を「滅茶苦茶」、「うるさい」を「五月蝿い」と表現し始めるなど、当て字を多く生み出したなんて話をどこかで聞いたことがあったが、猫に名前をつけなかった漱石がまさか肩こりの名付け親だったとは。
 
 
 
名前といえば、先端恐怖症という言葉はご存知だろうか。
刃物を向けられて怖いと感じるのは万国共通の認識だと思うが、私がこの概念に名前があることを知ったのは大学生になってからだった。
 
仲の良い4人グループでスノボ旅行にでかけたときのこと。
リフトに乗っていると、風に乗って雪が目に入ってきた。
「俺、先端恐怖症なんだよね」隣の友人が言う。
「先端恐怖症? なにそれ初めて聞いた」
 
当時の彼の説明を正確には覚えてはいないが、「なにか尖ったものなどが自分に向かってくることを怖いと感じること」みたいな感じだったように思う。
雪のように見るからに鋭利なものでなくても、自分に向かってくることに恐怖を感じるのだという。
 
 
今まで私がなんとなく怖かった気持ちに名前があったなんて!
食器カゴにおいた箸の先端が、偶然自分に向いていると思わず向きを変えてしまったり、はさみを人に手渡す際、自分に刃先が向いていることに怖くなってしまう。そんな私は、ただただ自分が異常に怖がりなのだと思っていた。
自分がおかしいのではないと安心したのもつかの間、先端恐怖症という概念を知ったために今度はありとあらゆる先端に対して敏感になってしまった。
銃口や剣を向けられる映画や3D映画に加えて、ペン先が自分に向いていることも怖くなり、挙げ句の果てには日常会話で指を刺されることにまで。
「私は先端恐怖症なんだ」と意識するようになってからというもの、自ら自分を苦しめるものを見つけにいっては避けるといったことを繰り返すようになってしまっているようだった。
 
ここまで来ると、もはや先端恐怖症だと知らないままのほうが生きやすかったのではないだろうかと考え始めてしまう。
 
でも、もしもこれが体調不良の原因であれば話は変わってくる。
病名が分かることで治療を進めることができるからだ。
 
先日私は得体のしれない不安に襲われた。
同じ商品を連日買ってしまう
お鍋を火にかけていることを忘れ、お鍋を焦がしてしまう(2回)
自分が何をしようとしたか思い出せない
毎日やっていることの手順が分からなくなる
等、いつもの自分ではない状態に不安を覚えた。ちょうどその頃、若年性認知症をテーマにした舞台を見たことも相まって、「もしかして自分は若年性認知症なのではないか」という不安は募るばかり。
そう思えば思うほどに検索する手を止めることはできなくなり、「進行を遅らせることはできても、現代医療では完治は難しい」という結論を見ては落ち込むのだった。
 
1ヶ月後、通勤途中にパニック発作を起こした私は診療内科で「うつ状態」との診断を受けた。弱い自分なりにバランスをとって上手くやってきたつもりだったのに、と多少のショックを受けた一方で、若年性認知症ではなかったことに安心したのをよく覚えている。
認知症とは異なり「うつ」は治すことができると知っていたからだ。
集中力や記憶力の低下もうつによるものだと知り、なにかのせいにできることがありがたかった。
 
名前を知ったことで手に入れられる安心と、名前を知ってしまったがために共生せざるを得ない不自由さ。
先端恐怖症とうつを経て、どちらも経験した私にもどちらが生きやすいのかなんてわからない。
果たして日本に来たことで「肩こり」を知った外国人は、治療法を知ることができて喜んだのだろうか。それとも知らないままでいたかったのか。それは個人の感じ方によるところだろう。
 
 
 
夏目漱石は猫になんと名前をつける予定だったのか。
 
肩こりに先端恐怖症、そしてうつ。もしかすると生涯名前を知ることのないままだったかもしれない彼らとの付き合い方を考えさせられた年末年始だった。
 
 
 
 
***
 
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2023-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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