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週刊READING LIFE vol.128

ラスボスと戦う作家たち《週刊READING LIFE vol.128「メンタルを強くする方法」》

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2021/05/17/公開
記事:Risa(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
想像してほしい。あなたは作家である。すでに何冊も本を出していて、複数の出版社から執筆を依頼されている。ここ数日は、書き下ろしの単行本の原稿にかかりっきりだった。それもやっと終わってほっと一息。コーヒーで休憩してから編集者にメールで原稿のファイルを送ろう。
 
ここまでは想像がつくだろう。問題はそのあとだ。原稿が仕上がれば、あとは待っていれば気づくと本屋に自分の本が並ぶはず、なんて思っていないだろうか? 実は、そんなことはないのだ。本を出す最後の段階で、まるでラスボスのように現れるものがある。それは校正だ。
 
校正とは、文章の誤字脱字を直したり、表記の統一をしたりすることを指す。例えば「原稿が書く」を「原稿を書く」に訂正し、「はじめて」と「初めて」が原稿の中で混在している場合は頻度の多い方に合わせる。同時につじつまの合わない内容や、明らかに事実と違う記述にも注意を払っていくが、こちらは厳密には校閲と言うこともある。
 
本屋に並ぶ前の本は、印刷の前段階でこの校正というものを経ている。出版社に所属している校正担当の人が行う場合もあれば、出版社から依頼された校正専門の会社が担当することもある。どちらの場合であっても、校正の結果は著者自身が見た上で、取り入れるかどうかを判断する。もちろん、著者が表現を直すこともある。こちらは著者校正と言う。
 
私は今年から校正専門の会社で校正の見習いをしている。保育園児の頃から、「今日先生がピアノの伴奏まちがえた」なんて親に報告していたくらいなので、間違いに気づくのは得意な方だと思う。それが仕事にできるので、とても気に入っている。これまでに新書やラノベを担当したり、単行本を文庫化する時の校正をしたりしてきた。
 
未経験で入社したため初めのうちは覚えることが多くて大変だったが、中でも一番印象的だったのは、本を出すにあたっての著者の作業量の多さだった。
 
校正作業では、ゲラというものを使う。本の見開き2ページを一枚の紙に印刷したもので、体裁は出版される時とそっくりだ。それを読んで、誤字脱字の訂正や気になる箇所へのコメントを赤ペンや鉛筆で直接書き込んでいく。平均すると1ページあたり1つの書き込みはあると思う。
 
校正者の作業が終わると、書き込みのあるゲラは編集者の下に渡り、著者(と編集者?)が書き込みを取り入れるかを判断していく。たいてい、取り入れるものは赤でまるく囲まれることになる。1冊だいたい300ページなので、書き込みも相当の数だろう。著者はこれを一つずつ見ながら、自分でも文章を直していくのだ。
 
すごい根気だな、と毎度感心してしまう。
 
校正は1回で終わらない。1度目の初校が終わると、再校がやってくる。私の会社では、初稿とは違う人が担当することになっている。人によって着目するところが異なるので、新たな疑問点が出てきて、また大量の書き込みのあるゲラが著者の下に戻ることになる。
 
私は新人なので比較的「楽」な再校を担当することが多い。「すでにベテランの人たちが初校でしっかり見ているのに、その上私に何か言えることはあるのだろうか、何も見つけられなかったらクビかな」、なんて入社当初はしょぼくれながら時に涙を流して帰宅することもあった。
 
ところが、そんなことは杞憂であった。いくら長年やっていても、限られた時間ですべての誤字脱字を見つけるのには限界があるので、初心者の私でもなんとかコメントすることを見つけられていた。そんな時は、「見落としてくれていてありがとう」と先輩に感謝し、著者には「間違えてくれたおかげで私は仕事を続けられる」なんて思ったりした。
 
著者は再校でも原稿にコメント入れられ、それに対して「乗るか乗らぬか」、「受けるか受けないか」の判断を下していく。おそらく、時にケチをつけられたとイラつきながら。
 
最近では、Twitterのアカウントを持っている著者も多い。特にラノベはネット上で発表した創作が元になっていることもあり、たいてい検索すると著者のページが出てくる。Twitterは日常のつぶやきに使うこともあるけど、彼らはペンネームを出しているので本の宣伝にほぼ特化している。
 
間違っても、「校正がたいへん」、「ゲラが戻ってきたけど、書き込みいっぱい」なんてつぶやいたりはしない。だから、あたかも悠然と執筆活動をしている、作家「先生」のように見えるだろう。
 
でも、私は彼らの裏の顔を、ゲラを通して垣間見ている。本を出している著者たちは、何もせずにいきなり本を出せるようになった訳ではないし、本を出す過程も優雅なものではない。私が知っている校正面に限っても、いくつもの「てにをは」などの助詞の誤り、漢字の誤変換、文法の間違い、表現の改善、内容の食い違い、事実誤認を指摘されていて、ひとつずつ受け止めて判断を下している。時に校正に対してイラッとすることもあるだろう。
 
私はとある機関誌にささやかな文章を載せたことがあるが、恥ずかしながら原稿について校正担当者からいろいろ指摘され、カッとして思わず感情的な長文メールを編集者に送ったことがある。
 
本を出す人はたとえどんなにムカついたとしても、どんなに編集者に対して怒りをぶつけたとしても、少なくとも投げ出すことはあってはいけない。本を出すところまでたどり着きたいのなら。あたかも細かい作業をちまちま延々と行う内職かのように、校正者の出した疑問に応えていくのだ。どんなにえらく見える著者も、生まれながらの作家のようにふるまう人も、みんなこの細かい作業を行っている。時に、ラスボスを倒すかのように。
 
傍から見て強くて立派そうな人は、仕事をさらっとこなしているように見えるけれど、実は見えないところでいろんなことを乗りこえているのだ。ちまちまと、ひとつずつ、見えないところで、決して投げ出さず。
 
強さのように見えるものは、小さいことの積み重ねかな。そんなことを、校正をしながら考える。
 
一気にゴールにたどりつかないけど、諦めずに続ける。投げ出さない。ひとつずつ。そんなことの積み重ねが、彼らを著者に、立派な作家先生にしていくのだろう。
 
もし、本を出したい人がいたら、すぐに結果が出なくても諦めないで続けてほしい。そして、いつか本を出せることになって校正された時も、怒らないで受け止めてほしい。校正者たちは、決して間違いを指摘して得意になっているのではない。ただ、あなたにいい本を出してほしいと思っているだけなのだから。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
Risa(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県で生まれ育ち、今は東京で校正者として働いている。

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2021-05-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.128

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