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週刊READING LIFE vol.131

思ったままを素直に言葉にできる気持ち良さをずっと味わっていたい《週刊READING LIFE vol.131「WRITING HOLIC!〜私が書くのをやめられない理由〜」》


2021/06/06/公開
記事:垣尾成利(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「思ったままを素直に言葉にできたら、どれだけ気持ちがいいだろう」
 
そんな憧れを持ったのは中学生の時だった。
ある時深夜の音楽番組で尾崎豊のミュージックビデオが流れているのを偶然見る機会があった。
その言葉の鋭さ、真っ直ぐさ、力強さに度肝を抜かれた。
 
全身鳥肌状態でテレビに目を奪われていた。
あの日が思春期への入り口だった。
 
翌日、レンタルレコード屋へ行き、アルバムを借りてきて聴いた尾崎豊の歌声に一瞬で虜になった。
全身全霊で10代の気持ちを代弁する尾崎豊の歌詞に心を奪われた。
 
自分という存在は一体なんなのだろう?
どこに向かい、何をするべきなのか?
自分らしく生きるために、どうすればいいのか?
 
俺たちは今、こういうことを考えて生きていかなきゃいけないんだ。
そんな、大きな課題を突き付けられたような気がした。
 
日々楽しく健やかに生きていたけれど、小さな反発心が心の中にいくつも積み上がっていたことに気付いた。
それは人を傷つけるものだったり、自分を傷つけるものだったけれど、実際に言葉にすることなく心の中に積み上げられたままだった。
 
尾崎豊を知った日、思春期の扉から積み上がったままだった反発心の欠片が崩れ落ち始めた。

 

 

 

自宅の押入れの中、一番奥に、何重にも袋に入れて封緘した数冊のノートを保管している。
この世を去る時、そのまま棺桶に入れてほしいと家族に伝えているノートだ。
 
そこには尾崎豊を知ったことで書き始めた、高校生の私の心の叫びがびっしりと書き連ねられている。
崩れ始めた反発心の欠片を文字にして書いたのがこのノートだった。
これが、私のライティングの始まりだ。
 
そのノートには尾崎豊信者とでも言うくらいに自分の存在がどうなのかとか、世の中の不満がどうとかってことばかり、内容的には随分偏ったことを書いていたなぁと思うようなネガティブな言葉ばかりを書いていた。
それはそれで自分と向き合う、自分を見つめるといった意味があったので良かったのだけれど、自分の気持ちを素直に伝えることの練習には全くなっていなかった点は、後に文章を書くときに大いに反省材料となった。
 
私は幼い頃から言いたいことが言えない子だった。
感受性が強くて、周りの人の気持ちに敏感だった。
今となってはこの感度の良さは長所だと思えるけれど、子どもの頃はしんどく感じていた。
何か言うと誰かを嫌な気持ちにさせたり、悲しませたりするんじゃないか、と思ってしまって言葉を飲み込むことが多かった。
自分から手を挙げて主張することもなかったし、みんなで意見をまとめる時も自分ならこうしたいと思うものがあったとしても、言わずに他人の意見に賛同して波風立たないようにしていた。
 
でも、それが心地よかったかと言うとまったくそうではなくて、こだわりも強いし、思ったことを曲げたくない頑なな面も持ち合わせているので、自分が正しいと思うことは貫きたいと思っていたし、納得いかない決定に黙って従うのも嫌だった。
 
じゃあ主張すればいいじゃないか、ということなのだが、できなかった。
 
それはなぜかというと、怖かったからだ。
自分の気持ちをコントロールできないままに放った言葉で友達を傷つけたり、言われた言葉で自分自身が傷つく経験をする度に、自分が思っていることを口に出すことが怖くなっていったのだった。
自分の気持ちを上手く伝えることに自信が持てずにいたので、人前で何かを言うのもとても苦手だった。
そのため、言えなくて後悔することがたくさんあった。
 
思春期の一番の後悔は恋愛だった。
理由は私が気持ちを伝えることができないままに終わってしまったからだ。
 
高校生の時に初めて彼女ができた。
部活の一年後輩の女の子だった。
向こうから好意を持ってくれて付き合うことになったのだけれど、私は付き合っている間ずっと、自分の気持ちを上手く言葉にすることができなかった。
すごく好きだったのに、「好きだよ」って言うのが怖かった。
手を繋いだりすることもできなかった。
彼女は何も言わない私にずっと寂しさを感じていたのだろう。
別れを切り出した彼女はずっと泣いていたけれど、何も言えずにいた。
 
もしあの頃、ノートに自分の気持ちを素直に書くことをしていたらどうだっただろう? と今でも思うことがある。
 
思ったこと、感じたことを飾らずにそのままの言葉で伝える練習の場として文章を書いていたら、きっと彼女に対してもっと好きな気持ちを伝えることができていたのだろうなと思う。
 
大人になって、インターネットができてブログというものができた時、匿名のブログを作って仕事の愚痴や文句を書き殴っていた。
単なるストレス発散だった。
文字を通じて、上司を叩きのめしたり実際に言えないことを大声で叫んだりしていた。
この時もネガティブな感情の捌け口として文字を書いていただけだった。
一瞬一瞬はスッキリするのだけど、不平不満を書いているだけなので現実は何も変わらないので、虚しくなって長続きはしなかった。
 
時代は更に進み、SNS文化がやってきた。
知り合いが私の書いた文章に反応してくれる。
これが嬉しくていろんなことを書いていたのだけれど、ある時友人から厳しい一言を言われた。
 
「あなたの書く文章を読んでいるとマイナスなことばかりで嫌な気持ちになります」

 

 

 

この一言は痛烈だった。
自分の場所なんだから、何を書いたっていいじゃないか。
そう思っていたのが間違いだったと気付くきっかけになった。
 
人の目に触れる文章は、誰も傷つけてはいけないんだ、ってことをこの友人の言葉で知ることができたのだった。
 
誰かを責めたり文句を言ったりすることはやめよう。
読んでくれた人が不快になるようなことは書かないようにしよう。
 
そう思うようになったら、書くことが変わってきた。
子どもの成長の中で父親として感じていることや、夫婦の間で起きた問題を前向きに解決するためにどう考えたか、職場で起きた出来事を解決するためにどう考えたらよいか、など未来を考えるような内容になってきたのだった。
 
もちろん過去を振り返ることもあるし、その時のマイナスな感情を思い出すことだってある。
でも書く時には未来に向けた言葉を選ぶようになった。
 
こんなことがあって嫌な思いをしたけれど、こんなふうに受け止めることができたら前向きに考えられるようになった、といった解決志向な視点で文章を書けるようになってきたのだ。
 
この変化は実生活にも大きな影響を与えるようになった。
 
思考と、感情の捉え方が大きく変わったと実感できるようになったのだ。
 
ずっとネガティブ思考だったから、悪い方へ悪い方へと物事を考える癖があり、そのせいでイライラすることも多く、感情的になることが多かった。
 
これが、書き方が変わったことで、文章と同じように解決志向で考えることができるようになり、頭の中で感情を考えて組み立ててから言葉にするようになったのだ。
 
愚痴や不満ばかりを書いていた頃、日常生活も怒りの感情が常に真ん中にあったけれど、使う言葉を変えたら、考え方、感情までもが大きく変わり、良いことが増えた。
 
人間関係でのトラブルも減ったし、イライラすることも減った。
自分の気持ちを押し殺したりすることなく、言葉を選びながら、構成を考え、どんな言葉を使えばより効果的に気持ちを伝えることができるか? を組み立てながら話せるようになった。
 
相変わらず自分に自信を持てないまま生きているけれど、それでも心の中は以前に比べて随分とスッキリ晴れやかになったように思うのだ。
 
そんな中でこの天狼院ライティング・ゼミに出会った。
「人生が変わる」というタイトルに惹かれた。
 
4か月間、16週にわたって毎週2000字の文章を書いて提出するというものだ。
これまで書いてきたことに加えて、ゼミで学んだことを活かして文章の質を高めることを意識して毎週書き続けた。
ネタを探すのも必死だ。過去の思い出の扉を開くことも何度もあった。
その度に気付くのだ。
ネガティブに受け止めたままになっていた過去を、今の目線で見直すことで全く違うものが見える、ということに。
 
高校生の時に書いたことや社会人になって匿名のブログに書いていたことも、改めてライティング・ゼミの課題として向き合ってみたことがあった。
以前はマイナスなことしか書けなかったことが、全然違う視点で見て前向きな言葉で書けたのだった。
こういうことが何度もあり、過去は消せないし、変えることはできないけれど、受け止め方を変えることはできる、ということに気付くことができた。
 
書き続けることで、文章力も上がり、自分が思ったことを思った通りに言葉にして表現できるようになってきたと手応えを感じることができるようになってきた。
 
書いていて気持ちいいのだ。
 
時には、過去の自分が気付かずに通り過ぎたことに改めて気付くこともあって、「あの時、この気持ちに気付いていたら、全然違った結果になっていただろうな」と思い直すことが何度もあった。
その度に心の中のもやもやした気持ちが晴れていった。
 
ライティング・ゼミを二回受講し、32回の課題を提出して、もうひとつ上のクラスとなるライターズ俱楽部に挑戦することにした。
 
この文章を書いているライターズ倶楽部では5000字を目標に書くことが課題となっている。
 
3か月、12回の課題提出、毎回テーマが決められていてライティング・ゼミのようにフリーテーマとはいかなくなる。決められたテーマで書き上げた時の喜びは何倍も大きくて、第一回目の課題を書き上げた時に感じたのは、より大きなキャンバスに自由に描くことができる楽しさだった。
 
毎回の課題には「誰かへのエール」という共通テーマを持って取り組んだのだが、毎回誰かのことを思って声援を贈ることをイメージしながら書くことで、あの人に伝えたいっていう思いをより強く込めることができるようになったと感じている。
 
最初、自分のために始めたライティングは、ネガティブな、人に見せられないようなドロドロした感情の吐き出し口だった。
それが今は、誰かにエールを贈ることを目的としたことを書く場になった。
この変化は自分自身の人生の歩き方も大きく変えてくれたと感じている。
 
私は相変わらずネガティブ思考だと思う。
けれど、書くスキルが上がったことと書く時の気持ちの持ち方が変わったことで、ネガティブ思考だからこそ気付く事ができたことや、後悔したままだった過去を納得のいく形で塗り替えて受け止めることができたことを書くことができるようになった。
 
毎回の課題提出は正直大変だし、苦しく感じることもある。
何度も心折れそうになって提出をやめようかと思ったこともある。
それでも、書くことは止めなかった。
 
苦しみながらも紡いだ文字たちが本当に愛おしいと思えるからだ。
 
一生懸命に書いた文章には、私が紡いだ言葉たちがずらりと並んでいて、活き活きと私の気持ちを主張してくれている。
 
読み返す度にその時の気持ちが鮮明に蘇るのは、全力を注いで書き上げたからこそだと思う。
 
尾崎豊を初めて知ったあの日から35年以上が過ぎた。
それでも今もあの時の衝撃は鮮明に残っている。
それくらい、心を込めて紡いだ言葉には強い力がある。
 
私が書いた文章だって、きっと誰かの心の中にずっと生き続けることがあるはずだ。
 
これからも、誰かの背中をそっと押すような文章が書けるように、心を込めて言葉を紡いでいきたいと思う。
 
そう思いながら書いている今がとても楽しいから、書くことがやめられないんだ。
 
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
垣尾成利(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)

兵庫県生まれ。
2020年5月開講ライティングゼミ、2020年12月開講ライティングゼミ受講を経て今回よりライターズ俱楽部に参加。
「誰かへのエール」をテーマに、自身の経験を踏まえて前向きに生きる、生きることの支えになるような文章を綴れるようになりたいと思っています。

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2021-06-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.131

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