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週刊READING LIFE vol.133

言葉がほしい《週刊READING LIFE vol.133「泣きたい夜にすべきこと」》


2021/07/05/公開
記事:九條心華(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
ことばに助けられる。
そんな経験も、たくさんある。
 
でも、ことばに傷つけられる。
そんな経験もまた、たくさんある。
 
おまえが悪い。
おまえには頭がない。
おまえは何もできない。
おまえは生理的に受けつけない。
おまえとは一生わかりあえない。
 
殴られて、脅かされて、恐ろしい形相で、罵詈雑言を数時間怒鳴られ続けると、泣きたくなる域を超えていた。
そんなとき、私は泣かなかった。
 
閉じる。
 
その言葉が、最もしっくりくる。
 
感覚をすべて閉じようとした。
味わいたくないからだ。
味わっていたら、おかしくなる。
本能的に、シャットダウンしようとした。
 
ことばは、単なることばに過ぎない。
そこに意味はない。
嘘だ。
そのことばは真実ではない、と思おうとした。
 
ただ、風のように、
ことばが右の耳から入って左の耳から通り抜けてくれるようにと願った。
 
頭に入ってこないで。
 
殴られて、抵抗して体をこわばらせても無意味だと悟り、死んだからだのようになって、力を抜いた。
意識的に生きることをやめた。
 
それでも、数時間後に朝がくれば、ふつうに会社に行って、何事もなかったかのように働く。
しかも、にこにこして。
 
なんで?
 
それが私だからだ。
それが、私だった。
 
世界中の誰にも言わずに、耐えていた。
たいしたことないと思っていた。
 
どうやって、精神を保っていたのだろうか。
きっと、働くことだ。
働いて、お金を稼ぐことで、誰かの役に立っているという実感が、私の生きる源だった。
一人で暮らしていても、誰かの役に立っているという実感はない。
でも、罵詈雑言浴びせられても、その人が生きるには、私がいないといけないという感覚は、
十分に、私の生きている原動力になっていた。
 
それでも、どこか虚しい。
それを埋めるために、ことばを探そうとしていた。
 
私はことばを畏れているのに、ことばの尊さに頼ろうとするところがあった。
それは人と自然との向き合い方と同じなのかもしれないと思う。
人は自然を崇拝し畏れている。
自然はときには厳しく、ときにはやさしい。
ことばも、ときには厳しく、ときにはやさしい。
 
そのことばさえも、奪われた。
家には、検閲があった。
本の所持や読書が禁じられたフィクションの『華氏451度』ではないけれど、私に害があるという理由で、持っていた本を破られた。
 
統制された世界で生きていた。
働く時間が、私らしくいられる時間だったと言っていい。
 
そんなある日、私の前にあらわれた霊能力のある人が、頼んでもいないのに、私を一目みてこう言った。
「あなたに未来はない」
 
なにそれ。
初対面の私に、何を言うのか。
未来がないなら、どうすればいいのか?
 
「離婚するか、引っ越しするかをしないと、未来はない」
両方、難しすぎる。
かなりショックだった。
そんなことをふいに聞かされて、どうすればいいのかわからなかった。
 
気にしない、ということもできた。
が、私は世界中の誰にも、夫のDVは言っていないのに、初対面の人からそんなことばを投げかけられるというのは、何かが働いているとしか思えなかった。
 
離婚したくないから我慢して生きていたし、購入した家に住んでいたので、引っ越しも考えられなかった。
でも、私の未来のために、いずれかをしなければならないのなら、究極の選択のどちらを選ぶか。引っ越しだろう。
 
引っ越ししたい、と言った。
案の定、受けいれてもらえなかったが、私が真剣に考えているのがわかったらしく、家を賃貸に出すということをちらりと考え始めたりした。
 
何かが動き出した。
とまっていた私の未来の何かが、微かに。
 
話は戻るが、殴られて、脅かされて、恐ろしい形相で、罵詈雑言を数時間怒鳴られ続けた夜、
嵐が去ってから、私は何をしたか。
私は、眠った。
そんなときに寝られるのかと思うが、ぜーんぶ忘れて寝ようとした。寝て起きたら、違う幸せな朝がくるのを祈って、死んだように寝ようとした。
 
「自分に、休息を与えてあげた」という表現がふさわしいかもしれない。
 
もうこわくないよ。
安らかに安心して眠っていいよ。
と、眠ることで自分を癒そうとしていたのかもしれない。
 
眠ることは、最高の治癒だと思っていた。
わたしのからだとこころを、休めたかった。
 
未来がないと言われてから、半年以上経っただろうか。
何も行動できないまま、離婚も引っ越しもせずにいた。
別の霊能力者が、目の前にあらわれた。
話していないのに、私が頻繁に浴びせられる罵詈雑言の怒鳴り声が聞こえてくるというのだ。そして、私の魂は、傷つけられてぼろぼろになっているとのことだった。
心あたりは大いにあった。
 
確かに。
なんでわかるの?
 
「スケープゴートになってはいけない」
そう言われた。
スケープゴートとは、身代わり、いけにえのことで、不満や憎悪、責任を直接的原因にぶつけずに、ほかの対象にぶつけることで、解消しようとする際の、ぶつけられた対象をさす。
 
私は彼のスケープゴートだった。
やるせない思い、不満、怒りを、一身に受けていた。
 
怒る相手がいるから、怒るのであって、怒っている彼も傷ついている。逃げなきゃだめだと強く言われた。
それは、私のためでもあり、彼のためでもある。
 
そして、私は逃げた。
自由になった。
 
自由になってから、「ことばに真実がある」というようなこと言われたことがあった。
そのとき、あの罵詈雑言が真実だったら、私は生きていけなかったと思った。
 
ことばには意味がない。
ことばはただの記号だと思うことで、かろうじて生きていた。
 
そのくせ、私は、いつも座る鏡台に、ことばを書いて貼っていた。
 
「心が変われば 行動が変わる
行動が変われば 習慣が変わる
習慣が変われば 人格が変わる
人格が変われば 運命が変わる」
 
ことばに、救いを求めていた。
ことばに、真実があるということも、真理だと思う。
 
逃げてきてまもないころ、京都新聞に、こんなエッセイがあった。
「震災直後にすべてを失った友人に電話で尋ねた。 私に何ができる? わずかな沈黙の後、はっきりと答えた。言葉がほしい。
面食らった。こういうときには言葉など何の役にも立たないと思っていたからだ。ところが友人は途方もない現実を受け止めるための言葉を真っ先に求めたのだ。文筆を生業の一つとする人間として私は言葉の力を信じ切れなかった自分に恥ずかしさすら覚えた」
 
人は、ことばを求める。
それが、凶器になることも承知の上で、ことばを求めずにはいられないのだ。
 
はじめにことばあり。
 
ものごとには、両面ある。
陰の部分と、陽の部分。
陰陽和合してはじめて存在する。
 
両面存在することを認めて受けいれていくことが、生きるということなのかもしれない。
できることなら、光り輝くほうを向いてゆきたい。
 
ことばのもつ、希望に満ちた力を信じたい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
九條心華(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

同志社大学卒。陰陽五行や易経、老荘思想への探求を深めながら、この世の真理を知りたいという思いで、日々好奇心を満たすために過ごす。READING LIFE 編集部ライターズ俱楽部で、心の花を咲かせるために日々のおもいを文章に綴っている。

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2021-07-05 | Posted in 週刊READING LIFE vol.133

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