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週刊READING LIFE vol.143

もしも世界から「文章」がなくなったとしたら、その後の世界は、私にとっては余生だ《週刊READING LIFE Vol.143 もしも世界から「文章」がなくなったとしたら》

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2021/09/13/公開
記事:赤羽かなえ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
もしも世界から「文章」がなくなったとしたら……。
 
この問いかけを自分にしてみると、おもいのほかホッとしている自分をみつけた。
 
文章を書くのは、好きだ。
 
なのに、締め切りの時間が近づくと、宿題が終わらない子供みたいに逃避することばかり考えている。
 
でも、いつも何を書こうか、これはネタになると四六時中書くことに頭を巡らせている。
 
アクセルとブレーキを踏みながら生きているみたいで滑稽な私だから、いっそ「文章」がなくなるくらいの方が潔くあきらめがつくのかもしれない、そんな風に思ってしまったのだ。
 
でも、私の人生を俯瞰すると、おもしろいくらいに書くということに縁がある気がする。私が書くことをあきらめたり、書かない時間があったりしても、結局最後に書くということに引き戻されている。
 
私の身の周りを見渡すと、書くことにこだわっている人はあまりいなくて驚くのだ。私ほど、書かなきゃいけない、何を書こうか、書けない……などと悩んでいる人がいなくて、私はあくまでも書くことを選択しているんだな、ということに気づかされる。
 
そういう意味では、私にとって書くということはとても特別な手段だし、世界から「文章」がなくなったら、もしかすると、何か大切なものが手から滑り落ちてしまうのかもしれない。
 
もちろん、書くことは楽しいことばかりではない。もしかすると苦しいことの方が多いかもしれない。
 
小さい頃、私にとって、文章を書くのは恥だった。
 
小学生の時に書いた読書感想文や作文の宿題は、母にほとんど修正された。三分の二くらい修正された作文が市のコンクールで入選してしまい、身の置き場もないくらい恥ずかしい思いをしたことがある。
 
自分の文章ではないのにみんなの前で褒められることが、どれだけ悔しくて、情けなかったことか。自分が書いた文章ではダメだったのか、助けてもらって卑怯だという罪悪感もあって、誰にも言えずに心の底に沈めてきた。
 
中学・高校の時には、読んでいた小説に影響をうけてノートに物語を書きつけたり、アニメの二次創作をしたりしていた。その時にも絵が苦手だから消去法で文章を書いていた。
 
でも、書き始めてみると、文章で表現している時間はとても気持ちが良かった。
 
自分自身が自分の理想の世界を作り上げ、その中に自分の分身であるキャラクターを生かしていくことで、現実世界で上手くいかない部分を穴埋めしていた気がする。
 
でも、それはあくまでも自分を慰めるための文章であって、人を楽しませたり、人に伝えたりしているわけではなかった。
深くは考えていなかったけど、自分でもそれが分かっていたのだろう、ごく限られた人にしか文章を見せることはなく、大学生になってから文章を書くことはやめてしまった。
 
大学生、社会人時代は、書くことから完全に遠ざかっていた。
思えば、大学・社会人の頃は、現実世界の方が充実していた。文章がなくても自分を表現できたから、わざわざ文章にしなくたって良かった。
 
もうそのまま、書くことを忘れていくのかと思ったのに、転職を機に私の環境が大きく変わった。書籍などの制作に携わるようになり、記事を書くことで、久々に書くことが始まった。
 
その仕事が楽しくて、私はまた書くということに意識を引き戻された。
 
遠方に嫁いで会社を退職したあとも、その会社からフリーランスで仕事がもらえた。苦労せずにフリーライターを名乗り、新天地でも仕事をもらうことができた。
 
書くことは私のことを見捨てなかったのだ。私が書くことから離れないように、運命の神様が少しずつ種をまいてくれていたとしか思えない。
 
それなのに、書いた文章に反応も評価もないことが不安だった。私は評価されるような文章が書けてないのかもしれないと落ち込んだ。
 
そんな私に追い打ちをかけるのが母だった。
母は、私が書く文章の思いが全く届かない人だった。
私が心を込めて母に宛てた手紙を読んで、母に怒られたこともある。文章を書いてお金をもらう人間なのに、一番身近な身内に自分の思いを文章で伝えることすらできない、ということが情けなかった。
 
そんなことが続くと、書くことは恥だという、小さい頃に抱えていた傷口がうずくのだ。
 
それでも、やっぱり神様は私に何かを書かせたいらしい。とある書店が主催する短編小説の賞でベスト10に残ることができた。そうすると、単純な私はまた文章を書くことをあきらめられなくなる。
 
悩む、いいことがある、悩む、いいことがある……私にとって書くということは、ほんの少しの喜びにつられて、膨大な迷い森の中を歩き回るような作業だ。
 
でも、そんなある時、あるラジオ番組で流れてきた話に衝撃を受けた。
 
とある小さな国出身の作家の母国語は絶えてしまったのだという。だから、その作家は、母国語で話を書くことができないんだ、という話だった。
 
そんなことが起こりうるなんて思ってもみなかった。
 
もしかすると、近い将来に、私が書いた日本語の文章が日本の人に伝わらない日が来てしまうのかもしれない。私が書いた文章が、古代文字のように解読できないような読み物になってしまうかもしれない。
 
そうしたら、私は、どうやって表現を続けていくのだろう。
動画も、絵も写真もどれもピンと来ない。
何か新しい表現方法を考え出すのか。
 
どれもしっくりこなかった。
 
できるならば、もう少し猶予があるならば、文章がなくなった世界が来ることを引き止めたい。今ならまだ、間に合うかもしれない。私の生きる世界から「文章」がなくなる前に、沢山表現しておきたい。
 
迷っている場合じゃないじゃない。書き続けるしかない。
 
冷静に振り返ってみると、世界から「文章」がなくなる片鱗はけっこうあるんじゃないかと思う。SNSだってここ10年ほどで、文章をしっかり書くフェイスブックはあまり見られなくなり、写真が中心になるインスタや動画主体のYouTubeなどが主体になっている。インターネットの世界では、写真や動画が表現のメインを占め、ツールとしての文章は少し弱くなっているのかもしれない。
 
それでも、私が、写真でも動画でもなく、文章でやりたいことがある。
 
私は、私の文章で「触媒」になりたいのだ。
 
中学の頃に実験でやった、過酸化水素水に入れた二酸化マンガンのように、入れることで酸素の発生を促進させるような文章を書きたい。
 
私の文章を読むことで、
落ち込んでいた誰かが元気になり、
迷っていた誰かが浮上するためのヒントを見つけたり、
どうしようもなく怒っていた人がすっと落ち着いたり、
今何も悩んでいない人がますます元気になったりするような、
そんな文章を書きたいんだ。
 
最近では、文章読むのを楽しみにしているよと声をかけてくれる人達が沢山いる。そうやって言ってもらえただけで、私は報酬がもらえるよりも元気になれる。
 
もしも世界から「文章」がなくなったとしたら、その後の世界は、私にとっては余生だ。
私は、私の全人生をかけて、悩んだり迷ったりしながらやっぱり文章を書き続けたい。
 
世界から「文章」をなくさないために、私は書き続けるのだ。
迷いながら、あがきながら。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
赤羽かなえ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

自称広島市で二番目に忙しい主婦。人とモノと場所をつなぐストーリーテラーとして、自分が好きなものや人が点ではなく円に縁になるような活動を展開。2020年8月より天狼院で文章修行を開始し、身の上に起こったことをネタに切り取って昇華中。足湯につかったようにじわじわと温かく、心に残るような文章を目指しています。

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2021-09-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol.143

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