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週刊READING LIFE vol.143

「21世紀を生き抜くリベラルアーツを身に付けるために」《週刊READING LIFE Vol.143 もしも世界から「文章」がなくなったとしたら》


2021/09/13/公開
記事:にじの青(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
リベラルアーツという言葉をご存知でしょうか?
 
直訳すると「自由主義者の技術」、つまり「自由に生きるための知恵」だと私は考えています。
元々の語源は、3000年前ごろから成立したギリシャの都市国家における権利です。ウィキペディアでは、こう記されています。
 
リベラル・アーツとは、 ギリシャ・ローマ時代に理念的な源流を持ち、ヨーロッパの大学制度において中世以降、19世紀後半や20世紀まで、「人が持つ必要がある技芸の基本」と見なされた自由七科のことである。具体的には文法学・修辞学・論理学の3学、および算術・幾何・天文学・音楽の4科のこと。
 
人間が学ぶ必要があるとされる基本の学問7つの最初に、文法と修辞という2つの読み書きに重要な部分が挙げられていることは、私たち人間の歴史が「文字」という記号の共通認識によって記録されてきたことを裏付けています。
 
もし、明日から全ての「文字」が意味を失って、世界中誰一人、その意味を読み解くことができなくなったら。
そうなった時。私たちはどのように生きていこうとするのでしょうか?

 

 

 

「翻訳という仕事をしたら、『オズの魔法使い』シリーズ全部、原文で読めるじゃん!」

小学校六年生の時に思い付いた未来の目標は、英文の翻訳者になるという割と現実味のある未来予想図でした。理由は、当時はまっていた『オズの国』シリーズが全て翻訳されている訳では無いというあとがきを読んだからでした。
 
「通訳は帰国子女じゃないと難しいけど、文章を訳するだけなら、私でも頑張ればなれそう!」
 
そんな未来予想図を思い描きながら、世界の名作文学から日本の現代文学、ライトノベルなども乱読した十代。まさか卒業文集に堂々と「翻訳者になる」と書いたくせに、数年後全く毛色の違うファッションの道へ進んだわけですが、字幕にあまり頼らないで海外映画を観たり、英文を辞書無しで意訳しながら読んでみたりなど、英語でのコミュニケーションが出来る状態で居ようと意識し続けてきました。
 
世界で最も話されている共通言語といえば、英語と中国語でしょう。
この2つの言語を、日常的に話し理解できれば、世界中どこに行っても誰とでも話せます。百歩譲って、読み書きだけでも最低限できれば、メモやスマートフォンへの入力で意思疎通できる。
 
でも、その基本になる「文字」と言うモノが、一瞬にして誰にも読めなくなったら。
 
「危険」「猛毒」と書かれていることすらも、分からなくなってしまって、大変なことが起きるかもしれません。
 
何気なく、普段目にしている「文字」や「数字」、「記号」。
これらは、私たちがあるひとつの約束事を知って、覚えているから使えているだけなのです。それは、共同幻想とも言えるかもしれません。

 

 

 

ギリシャの都市国家には、平等という考え方が有りませんでした。なぜなら、目に見える区別がされていたからです。
リベラルアーツ、自由主義者の技能とわざわざ銘打ってあるのは、自由では無い人たちの方が多かったのです。職業としての奴隷が当たり前のように存在し、女性は父親、または結婚相手の付属品。だから、一部の限られた男性にしか「自由」という権利が無かったのです。
 
文字の読み書きが出来て、図形の面積を計算して、立体的な図面を引くことが出来たり、音楽や芸術の良さを論理立てて語ることが出来て、暦が読める。
 
言い換えればこれらのことが出来ることが、自由に生きられる権利を持つ特権者の証でした。だからこそ、2000年以上経った今でも識字率というデータでその国の教育普及率がわかるのです。
 
漢字は、もともと表意文字でした。エジプトのヒエログリフ(神聖文字)も同じです。ある物体に似せた形を「木」とか「鳥」とかという意味で使う。だから漢字をみると、なんとなく形や部首などでその漢字の意味を連想することができますよね。そして漢字を書き崩して音だけ拾ったものが、ひらかなとカタカナです。これらは、音を表すので表音文字といいます。アルファベットやハングルも表音文字です。
 
日本には、西暦538年に仏教が中国から伝わってきた時から、漢字が共通の記録文字として使われるようになりました。では、その前には文字は無かったのか? 実は、忘れ去られている古代文字があります。ヲシテ文字、カタカムナとよばれる古代文字です。ネット上で取り上げられたり、長年研究している人もいて、いろんな文献も多く書かれているので、読める人も多少いますが、それでも一旦歴史上から消えた「文字」です。
 
何故、歴史上から「文字」が消えてしまうのか?
 
それは、簡単です。「文字」は何かを記録するために作られた生きた道具だからです。だから、その「文字」を知っている人が居なくなれば、歴史上からあっけなく「文字」は消えてしまいます。

 

 

 

今から約3000年前。地中海には、クレタ文明とミケーア文明という古代文明が存在していました。クレタ島のクノッソス宮殿遺跡やトロイの遺跡は、その時代の遺物です。そこに残されている「クレタ文書」は、まだ解読されていない古文書としてとても有名です。クレタ文明を滅ぼして出来たのがミケーア文明。そしてミケーア文明もヒッタイトなどのギリシャ系海洋民族によって滅ぼされてしまったとされています。
 
征服者にとって、征服した土地に残るそれまでの歴史や文化というものはゴミでしかなかった。だから、「文字」や「風習」を奪い、捨て去ることで、支配をすすめる。これは、人間の歴史上、「文字」が存在してからずっと、繰り返し起きている歴史の闇な部分です。
大航海時代、南アメリカ大陸でも、マヤ文明やアステカ文明、インカ文明など独自の発展を遂げた文明の古文書は現地にはほぼ残っていないそうです。理由は、キリスト教以外の信仰を認めなかった、当時のイエズス会宣教師たちが焼き払ってしまったり、自国へ持ち帰ってしまったからです。だから、今、当時の「文字」を読み書きできるマヤ族もアステカ族もほぼいません。しかしマヤ文明の天文学は、とても高度で正確な計算で成り立っていたかもしれないということが研究によって、少しづつ明らかになっています。
 
地球の歳差運動とよばれる地球の地軸がぐるりと1周する周期がだいたい2万6000年で、そのとき地軸が少しづつ移動するということはすでに天文学では周知の事実ですが、マヤ文明のカレンダーでもコンピューターや精密な望遠鏡も存在しない何千年も前から、地球は約1万2920年に一度のサイクルで一区切りだという考え方を持ち、別の位置に移動するという概念があったということが分かっています。
 
もし、マヤの古文書が残っていて、「文字」を読み解く子孫が生き残っていれば、もっと早く地球の公転や周期活動の事を解明できたかもしれません。
しかし、歴史は常に、声が大きい勝者の視点でしか残されません。
 
では、明日、いきなり世界中から「文字」が消えたら。
人間の歴史を記録できるものは、何が有るでしょうか?

 

 

 

言葉と言うモノは、私たちの想像以上に私たちの生活には無くてはならないモノです。赤ちゃんは、母親をはじめ周りから聞こえてくる全ての「音」や「声」から「言葉」を真似しながら、覚えていきます。
もし、「文字」が無くなっても、人間が生きている以上は「言葉」が消えることはほぼ在りえません。ですが、「言葉」もまた、それを使う人が居なくなれば消えてしまいます。
 
「文字」が一瞬にして、無意味なものになっても、私たちにはまだ、使えるものが有ります。それは、絵です。紙や板、砂に、何かの形を書く。「文字」の元になったのも、絵です。
 
また、「言葉」を失っても、人間には他の動物以上に意味を持つコミュニケーション手段が有ります。
 
それは、ボディランゲージです。
「目は口ほどに物を言う」というように、顔の表情で相手に気持ちを伝えられたり、手話のように、身振り手振りでも意思疎通はできます。
 
しかし、「言葉」も「ボディランゲージ」も記録には向きません。その場限りのコミュニケーション手段です。
YouTubeやInstagramのように、動画や音声を記録したSNSが人気なのも、後から何度も繰り返し見返せる表現方法だからですが、それ以上に人間は視覚から8割以上の情報を得る動物だからでもあります。聴覚も合わせると、動画というコンテンツは情報察知する五感の内9割の部分を占めることができます。
だから、「言葉」の壁を越えて、世界的なYouTuber が存在します。
音楽も、歌詞の意味が通じなくても、時代を超えて世界中で歌われ、演奏される曲があります。
人間が、目と耳を使うことが出来る限り、「文字」が無くなっても、「動画」「音楽」この2つがあれば、何かを記録したり、意志疎通をすることはできるでしょう。
 
しかし、「文字」はもっと重要な部分で私たちの生活に深く影響しています。
残念なことに、全ての「文字」という存在が消されてしまえば、パソコンのプログラムを作る事やインターネット環境の維持が出来なくなってしまうでしょう。なぜなら、私たちが今使っているコンピューター関連のアプリケーションやプログラムは全て、コンピューター言語というアルファベットと記号の組み合わせによって、成り立っているからです。
 
音としての言葉は残っていても、26個のアルファベットを繋ぎ合わせる単語や文章というモノが機能しなくなれば、SNSをはじめ多くのマスメディアが停止してしまうでしょう。
そもそも、スマートフォンやパソコンでの入力も音声入力以外機能しなくなります。
 
間違いなく、全世界がパニックになることは間違いありません。
そのくらい、私たちは「文字」というただの記号に大きな意味を持たせているのです。

 

 

 

昨年からのいろんな出来事から、自由に生きるには何がこれから必要な知識、技能なのだろうと日々、考えています。
ちょっと前までは、お金が有れば多少の事は何とかなるとも言えましたが、病気などで身動きが取れなくなった時に、お金よりももっと重要なことが必要になるのではないかと考えるようになりました。ギリシャのように、国が立ち行かなくなれば今まで価値のあったはずのお金が紙切れになるということも起きるわけです。
また、なんらかの世界的なサーバーエラーが起きたりすれば、すべてのインターネット環境が一瞬にして停止してしまう可能性もありますし、SF映画のようにIDが確認できないと、最低限の行動すら出来ない。そういう事態も起きるかもしれない。
そのくらい、当たり前が一転してしまう時代である。2020年代はそのようにみえなくもないのです。
 
21世紀を生きるためのリベラルアーツは、今までの読み書き、計算、幾何学、天文学、論理的思考、芸術創作ではないのかもしれません。
 
たとえば、誰とでも意思疎通が出来るコミュニケーション力。ここには、人を見た目で判断して差別したり、必要以上におびえたりしない、という人間力が必要でしょうし、感情に左右されないということも重要です。
 
それから、お金との交換では無く、等価交換できるスキルをいくつ持っているかというどんな時でも生き延びる力、生活力というのも欠かせないでしょう。万が一銀行のデータがハッキングされて消えてしまえば、私たちの預金もデータ上存在しないモノになってしまいます。そうなっても、何か交換できるものを持っているということで、お金が無くても生活が成り立つということも、どんな状況でも自由に生きるために必要不可欠かもしれません。
 
そして、文字だけでなく、全ての記録が出来る電子機器が使えなくなっても、危険やトラブルを乗り越えられる知識を脳内で蓄えられているか。これは、それぞれが得意分野で協力し合えばよいので、コミュニケーション力があれば、誰かに頼るということが出来るなら自分で知識を詰め込む必要は無いかもしれません。
 
最後、自分の身体の面倒を自分で見れるか。これも、最悪、誰かに頼ることで解決は出来ますが、やはり、何故今、自分の身体がこういう状態になっているか、ということくらいは他人に説明できるくらいでないと、正しい情報を得ることも出来ないかもしれません。
 
デジタルトランスフォーメーションが今後進んでいく中で、アナログなスキルというものがさらに注目されて必要になる。そう感じることも多くなりました。
 
どんな状況でも自分の考えを持ち、行動できる。
それが21世紀のリベラルアーツを学ぶ上で、基本となる考え方なのかもしれません。

 

 

 

何にも縛られず、自由に生きること。
これは、私がここ数年ずっと目標にしている価値観でした。
しかし、現実では、「社会という枠の中で与えられた自由」でしかないし、どれだけ自由で居たいと願っても、国やコミュニティに参加している時点で、自由とは言えないのだと気が付きました。
 
今、こうして自分の考えを文章として書きまとめることが出来るのは、子どものころから今に至るまで、たくさんの本に出会ったことでいろんな知恵を学ぶ機会を得られたおかげでもありますし、女性の立場が認められている時代に生きているということでもあります。
 
過去の歴史を学び、また、未来へ私たちの考えを伝えていく手段として、この世界から「文字」も「文章」も必要不可欠であると強く思います。
そして、仮にもし、それらが失われることが有っても、また新たな記録手段を人間は編み出すのだと信じています。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
にじの青(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

セクシャルマイノリティ。サピオセクシャル(知性愛者)でジェンダーバイナリー(精神的両性具有)。10歳で、「周りと違う自分の性の在り方」を自覚。20代からアンダーグラウンドカルチャーにはまり、性に関するいろんな個性を持つ人たちと交流していくうちに、本当の「自分らしさ」について考えるようになる。「性別は個性の根源である」という信条から、自分の心と身体の性別を個性だと受け入れる性的自認についての出版を目標。女性向けの性教育やジェンダー、性のあり方に関するカウンセリングなどを中心に「学校では教わらない性教育」をテーマに活動中。

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2021-09-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol.143

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