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週刊READING LIFE vol.148

確認と合図《週刊READING LIFE Vol.148 リーダーの資質》


2021/11/22/公開
記事:河口真由美(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
先日、職場のリーダーから一冊の本を渡された。
 
 
『世界一わかりやすいプロジェクトマネジメント』
 
 
思わず、顔が引きつりそうになった。いや、引きつった。
“プロジェクトマネジメント”という文字を見るだけで、おなかの奥の方からムカムカしたものが込みあがり、拒否反応を起こしてしまう。
 
リーダーは、言葉も添えて、この本をプレゼントしてくれた。
 
「これ、読んでおいたほうがいいですよ。今からどんどんプロジェクトが動き始めるんで、プロジェクトリーダーとして知っておいたらタメになりますよ」
 
それが、大好きな少年ジャンプの冒険漫画やスポーツ漫画だったら、喜んで受け取っただろう。
もしくは「これ、めちゃめちゃ面白かった! 思わず一気読みしちゃった!」と言われたら、なんだ、ソレ、気になるじゃないか! と読みたくなるかもしれない。
でも、読みたくないものを読んだ方がいいと半強制的に言われると、余計読みたくなくなる。
 
リーダーは、グイグイと本を渡してくる。
よかれと思って、私のためにしてくれているのだろう。が、正直ちっともうれしくない。
リーダーが引く気がないので、仕方なくいったん本を受け取ってみる。
 
もしかすると、読んだら何かが変わるのかもしれない。新しい学びがそこにはあるのかもしれない。
 
そう思い、パラパラとページをめくってみる。
リスクマネジメント、ステークホルダー、WBS、クリティカルパス、費用対効果分析……
苦手な言葉ばかりが目に入ってくる。
 
パタン。
 
私は本を閉じ、会社の本棚にそっとしまった。
 
 
正直に言うと、私は『プロジェクトリーダー』というものから逃げ続けてきた。
私が持つ『プロジェクトリーダー』のイメージは、調整、調整、調整、管理、調整、調整、管理……
常に調整ばかりしていて、何一つ面白そうに見えない。というよりも、面倒くさそう。
数字と、スケジュールと、問題と、にらめっこばかりしている。
そこをうまく回していくことに、やりがいを感じる人もいるのだろう。
私自身、プロジェクトリーダーを経験したこともあるが、残念ながら何一つやりがいを見出せなかった。
 
 
こんな私が、『リーダーの資質』について語るなんて、非常におこがましい。
説得力の欠片もないだろう。
“リーダー”として『リーダーの資質』を語るに足りない人間なのだ。
けど、私はシステムエンジニアとして18年、何十ものプロジェクトに携わり、たくさんのリーダーたちと仕事をしてきた。
失礼ながら“チームメンバー”として、リーダーたちに思うことはたくさんあった。
ということで、“チームメンバー”の目線から『リーダーの資質』について語ってみたい。

 

 

 

正直に言うと、今まで見てきた、リーダーの中には、「この人についていきたい!」「この人の下で学びたい!」と思う人はいない。
 
 
ちょっと言い方に語弊があった。
決して、今まで見てきたリーダーたちを否定しているわけではない。
私自身も経験したことはあるので、マネジメントの難しさと大変さは痛いほどよくわかる。
チームメンバーに的確に指示する人
メンバーに自分で考えさせるように、問いかけをする人
リスクコントロールをしっかりして、自分じゃ気づけないところを指摘してくれる人
先頭になって突き進み、チームメンバーを巻き込んでいく人
今まで見てきたリーダーたちが、どれだけ優れているかわかっているし、学ぶところもたくさんある。
でも、どこか自分の中で、リーダーはこういうものだよな。と、ひとまとまりに感じてしまっているところがあった。個性があるリーダーたちも、私が本棚にしまったプロジェクトマネジメントの本に沿って作られているように見えた。みんな同じような本をもとに勉強しているから、あたりまえかもしれないが……
テレビで見るカリスマ経営者たちのような、「この人についていきたい!」と思うような人は、現実にはいないんだろうと思っていた。
 
 
 
しかし、私は予期せぬところで、そのカリスマのような人物に出会うことになる。
 
数か月前のこと、私はあるシステム改修の小さなプロジェクトを任されていた。
システムの置き換えを目前に控え、置き換え後に問題がないことをどう確認していくのか、お客さまと打ち合わせをすることになった。
すでに一度打ち合わせをしていた内容であったが、絶対に間違いがあってはいけないというお客さまの強い思いがあり、再度確認し直したいと依頼を受け、急遽打ち合わせのセッティングを頼まれた。
 
打ち合わせの場には、お客さまの業務担当者、システム担当者、私含めたシステムエンジニア2名のいつもと変わらないメンバーが揃っていたのだが、そこに見たことのない人が入ってきた。
 
「はい、ごめんね~。おじゃましま~す」
 
松方弘樹さんのような風貌をした強面の男性に、一瞬ビクッとなってしまった。
ヤバッ! 怖っ! なんか絶対偉い人だ!
その人の紹介もなく、不安な気持ちを抱えたまま、打ち合わせが始まった。
恐らくその人は、お客さまの業務担当者の上司と思われる。
名前もわからないので、仮に松方さんと呼ばせてもらおう。
 
「では、早速、システムを置き換えた後の確認方法について、ご説明させていただきます」
システムエンジニアが説明を始めようとしたときに、
「ちょっと、待って!」
松方さんが説明を遮った。
「まず確認なんやけど、この打ち合わせは、今回こんなシステム改修をしました、それでここの部分をこう変更してるから、じゃぁそこをどう確認していくか? っていう説明をしてもらえるってことでいいんよね?」
「はい、おっしゃる通りです」
「あー、はいはい。わかった。いいよ、続けて」
そういうと、松方さんはスマホを見始めた。
 
なんなんだ? この人は?
打ち合わせの趣旨をわかって参加してきてるんじゃないのか?
説明を遮られたことで、あなたの説明だと何を言いたいか全然わかりませんよ。と言われたような気持になる。しかも、説明してって言ってる割にはスマホ見てるし、聞く気あるのか?
私の中でこの怪しい人物への不安がどんどん募っていく。
 
こちらの説明を終え、お客さまの業務担当者(仮にAさん)とシステム担当者(仮にBさん)が、あぁじゃない、こうじゃない議論をしている。
私はその内容を聞いていて、なんとなく話が嚙み合っていないなぁというのを感じていた。
すると、スマホを見ていたはずの松方さんが、急に話に入り込んできた。
「ちょっといい? まずAくんは、こういうところを確認したい。それに対してBくんは、こういう検証をしてるから、ここで担保が取れてるってことをいいたいんよね? それはシステムでこんな処理をしてるから……(解説が続く)」
 
その説明を聞いて驚いた。
松方さんは、業務担当の人であるはずなのに、システムの細かいところまで熟知しているような話し方だった。正直、私よりも理解してるんじゃないかと思えた。
松方さんの説明を聞いて、改めて自分も状況を復習させてもらっているような気持ちになった。
 
「確かに、そういう確認をすれば、担保は取れてるかもしれないね。でも、我々業務担当としては、ここがこうなってるから大丈夫なんですよって、上にきちんと報告をしないといけないんよね。だから、この部分が問題がないことを目に見える形で成果物として出してもらいたいわけ。じゃないと、Aくんも上に報告ができないんよね」
 
あなたが言っていることは、こういうことですよね?
そしてそれは、こういう意図があって言ってるんですよね?
それをすることによって、結果こうなるんですよね?
このように、松方さんは時々話に入ってきては、参加者にひとつひとつ確認し、小さな課題に対する対策を整理しながら、みんなの認識合わせをしてくれた。
 
打ち合わせは非常にスムーズに進み、当初、1時間予定していたものが40分くらいで終わった。
こんなに気持ちよく打ち合わせが終わるという経験をしたのは初めてだった。
これからの作業に向けて、それぞれの役割、やるべきことが明確になっている。
そして、誰一人不満をもってない
 
魔法にかかった気分だった。
 
本当の打ち合わせってこうだったのか……。
社会人18年目にして、初めて正しい打ち合わせというものを教えてもらった気持ちだった。
「こんな人の下で勉強したい!」と初めて思った。
 
 
松方さんは、運動会の組体操で笛で合図をする指導者のようだ。
 
ピッ! 指導者が始まりの合図をする。
笛の合図に合わせて、生徒たちはテキパキと自分の立ち位置に移動し、ポーズの準備をする。
ピッ! 指導者は全員が準備できたことを確認し、笛で合図する。
笛の合図に合わせて、ポーズを決める。
ピッ! 指導者は次のポーズに向けて、合図をする。
 
このように、指導者は必ず全員の足踏みが揃っているのを確認しながら、ひとつひとつポーズを進めていく。
 
以前、グラフィックデザイナーの佐藤卓さんの講演でも、少し似たような話があった。
講演の内容は、佐藤さんが松屋銀座の150周年プロジェクトにクリエイティブディレクターとして携わったときの話だった。
松屋銀座は、1989年から生活デザイン百貨店というストアコンセプトを使っていた時代があった。そんな昔からデザインという考えを取り入れていたんだから、150周年を機にデザインを軸に歩んで行っていいんじゃないか、という佐藤さんの意見に松屋銀座の社長が賛同し、「デザインの松屋」として生まれ変わるプロジェクトが始まる。
まず、はじめに佐藤さんが行ったことは、“デザイン”の定義だった。
百貨店としてデザインをどう捉えていくのか、“松屋にとってのデザイン”とは何なのか、松屋で働くすべてのポジションの人が共通の認識を持てるように、デザインをこう定義した。
 
“デザインとは、気づかいです。”
 
このデザインの定義をベースに、
松屋銀座が実現したいものは何なのか
それを実現するための使命は何か
じゃぁそうするために、どう行動していくのか
ひとつひとつ順を追って定義し、社員の意識改革を行っていった。
 
佐藤さんは松屋銀座の屋上から地下、バックヤードまでを歩き回り、美しくないディスプレイや、広告などを写真や映像に残し、どういうところが良くないのかをきちんと説明し、その映像を社員食堂のモニターで公開した。そうすることによって、社員一人一人がデザインを自分事として考えるようになっていった。
 
佐藤さんは、“デザイン”に対する社員の意識を揃えるということをまず最初に行っている。
まさに先ほどの組体操の指導者のように笛を吹いていると思う。
 
 
プロジェクトに関わるメンバーの立ち位置を確認させること、意識を統一することは、当たり前で簡単に思えるかもしれないけど、実はとても大切で、忘れがちなことなのではないだろうか。
プロジェクトに参加していると、意外とみんなの気持ちや、役割があやふやなまま、流れに任せてスタートすることがある。相手がわかってくれるだろうと思っていたら、お互いが考えているレベルに差があったりと認識がずれていたりする。
これはプロジェクトの開始時だけではなく、打ち合わせでも、途中途中の作業すべてに言えることだ。
 
松方さんや、佐藤さんのように、みんながわかっていると思っても、あえて言葉に出し、文字に起こし、きちんと定義し、みんなで確認しあうことで、参画しているメンバーは全力で演技ができるのだ。
 
組体操もプロジェクトも団体競技だ。誰かが一人とびぬけていてもダメで、みんなが揃っているからこそ美しい。
私が思うリーダーの資質は、組体操の指導者のように、『次の行動のために、きちんと全員を確認し、合図を出せる人』だと思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
河口真由美(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県在住。システムエンジニアとしてIT企業に17年間勤務。
夢は「おばあちゃんになってもバリバリ働いて、誰かの役に立ち続けること」
40歳で人生をリニューアルスタート。ライティングをはじめ、新しいことにチャレンジしながら夢に向かって猪突猛進中。

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2021-11-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.148

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