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週刊READING LIFE vol.148

鉄道が導いてくれたのは、リーダーという名の駅だった《週刊READING LIFE Vol.148 リーダーの資質》


2021/11/22/公開
記事:いむはた(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)
 
 
Leadは、かならず to とセットですよ。
 
高校の英語の授業だったと思います。先生が言っていました。Lead(先導する、導く)は、必ず、Lead to Xとセットで使いなさい。Lead to 場所、Lead to 行動、Lead は単独で使えません。導く対象が必要なんですよ、と。
 
リーダー、その言葉を聞くたび、ぼくは決まって先生の言葉を思い出します。そして、その時、イメージするのは、例えば、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ、例えば、孫正義さん。ビジョンを示し、会社、そして社会までもグイグイと引っ張っていく。自らが先頭に立つことで、彼らを頂点として全体が引き上げられていく。まさに、引っ張り上げる人、高みへと導く人、彼らこそリーダーです。
 
ただ、こんなふうに考える自分もいます。リーダーと呼ばれる人には全く逆のタイプの人もいるじゃないか、と。
 
例えば、阪神タイガース矢野監督。チームの強化、選手の育成ついての考え方を聞かれる中で、自らの現役時代を振り返り、こんな風に言っていました。
 
チャンスに打席が回ってきた。ただ、当時の自分は絶不調。カウントがスリーボールになったとき、頭をよぎったのは「フォアボールでもいいか」 ただ次の瞬間、「おれは何のために練習してきたんや」と悔しくなった。そして、思い切って振ったバット。結果は逆転サヨナラタイムリー、あれが、弱い自分を克服した瞬間だった。チームが強くなるには選手個人の力の底あげが必要。そのためには選手一人一人が、自分で自分を克服していくしかない。ぼくらにできるのは、選手のサポートをすることだけ。
 
なるほど、プロスポーツの監督・コーチといっても、できることは後押しか。ただ、改めて考えてみると、当然かもしれません。プロ野球はその名の通り、プロフェッショナルの集団、技術の向上といった話だけでなく、調子が悪い時にどうやってモチベーションを保つのか、そういったメンタルな面においてもプロフェッショナルであるべきです。
 
そして、その基本となるのは「自分」です。監督・コーチに言われたから、がんばります、なんて態度でうまくいくとは思えません。あくまで主体は「選手自身」、監督・コーチの役割は「従」、裏方、というわけです。
 
すると、今度は、こんな疑問が湧いてきました。矢野監督のような後押し、サポートタイプはなんと呼ぶべきなんだろうか。リーダーという言葉の意味だけを考えると、フィットしないような気もします。サポーターとかヘルパーとか呼ぶのでしょうか。ただ、それも違うような気がします。
 
矢野監督だって間違いなくリーダー、でも「先」に立っているわけではありません。立っているのは、むしろ「後ろ」です。前に立つのがリーダー、でも後に立つのもリーダー? よくわからなくなってきました。リーダーとはXである、うまく言い表せる言葉はないのでしょうか。
 
 
そんな問いにヒントをくれたのは、「鉄道」でした。偶然見たテレビ番組「沁みる夜汽車」鉄道にまつわる物語が、ぼくをリーダーの本質へ連れて行ってくれたんです。
 
タイトルは「寝台列車が作った家族の時間」、さあ、一緒にリーダーの本質「X」を探す旅に出かけましょう。
 
今から10年ほど前、ある男性に辞令が下ります。川崎から高松への転勤でした。心配なのは、小学生の二人の息子。週末は一緒に過ごしてあげたい、転勤後は、新幹線に飛び乗りました。
 
ただ、高松に帰るには、日曜の午後には川崎を立つ必要があります。彼と彼の家族には、週末は土曜日だけ、一日しかなかったのです。日曜日、子供たちは朝からずっと元気がありません。別れ際はお葬式のようでした。新幹線にのると妻からのメールがありました。あれから、次男がずっと泣いている、と。働いているのは家族のため、でも自分は家族を幸せにしているのだろうか、わからなくなってしまったのです。
 
そんなとき、見つけたのがサンライズ瀬戸。深夜に川崎をたち、翌朝7時に高松に着く寝台列車です。これに乗れば、あと4時間、家で過ごせるのです。遊んだ後に、一緒にお風呂に入り、夕食をとることができるのです。
 
すると、子供たちの表情が変わりました。週末を父親と一緒に過ごせたことで、子供たちが満足し、安心して毎日を過ごせるようになったのです。そんな生活が3年ほど続きました。
 
彼は、今、手元に残った100枚を超える切符を見ながら、誇りを感じています。サンライズ瀬戸に乗らなかったら、今の家族はなかっただろう。サンライズ瀬戸が、自分たちを家族にしてくれた、と。
 
いかがでしたか? リーダーとは「X」である、当てはまる言葉は見つかりましたか?
 
えっ、いい話だけど、リーダーの本質にはちょっと……
まさか、父親だからリーダーなんて、そんな単純な話じゃないよね?
 
なるほど。どうやら、まだ目的地にはたどり着いていない様子。でも、ご安心ください。もう一本、乗り継いでいただければ、今度こそ、リーダーの本質にたどり着けると確信しています。それでは、次の鉄道物語、タイトルは「やさしい嘘」
 
真夏のある日、ある女性が幼い娘さん二人と電車に乗ります。席を見つけ、一息つくと、隣の駅で乗ってきたのはお腹の大きな妊婦さん。
 
席を譲ろうと、娘さんが席を立とうとしたときのこと、「隣の駅で降りるんで」隣に座っていた高校生が席を譲りました。
 
次の駅に到着、電車を降りた高校生でしたが、隣の車両に急いで乗り込む姿が…… 「なんでお兄ちゃん、ウソついたの?」不思議がる娘をよそに、車内には、ほっこりとした空気が流れました。
 
あれから数年、あの出来事を覚えているか、その女性は娘さんに尋ねました。すると「うん、あの嘘をついたお兄ちゃんだよね」
 
娘さんが続けていった言葉が驚きでした。「席を譲られて、気を遣わせないように、嘘をついてくれたんだよね」
 
彼女はいいます。当時、いや、今だってそうかもしれない、私が娘たちに伝えられたのは「嘘はいけない」でも、あの高校生が身をもって教えてくれたんです。嘘にはついてもいい嘘がある。それは、誰かの心を救ったり、ほっこりさせる、やさしい嘘。
 
あの頃は理解できなかった娘たちが、そんな優しさを理解できるほどに成長できた。そのきっかけをくれたのが、あの電車での出来事。いつか娘たちも、あの高校生のように、優しい人に育ってほしいと思っています。今は感謝の気持ちでいっぱいです、と。
 
えっ、今度も感動のストーリー、だけど、もう、いい加減に教えろ? 二つの物語のどこに、リーダーの本質があるのかって?
 
わかりました。夜行列車に乗り続けた父親、席を譲った高校生、彼らの行動に共通するもの、そして、ぼくが、そこに、リーダーの本質を見たもの、それは、「今、できることをする」
 
寝台列車に乗り続けた父親、当時の彼の頭にあったのは、「息子たちに寂しい思いをさせたくない」そして、そのために「今」の自分ができる精一杯、それが寝台列車に乗ること、ただそれだけだったのではないでしょうか。
 
もちろん、その行動は、今の家族の幸せにつながっています。家族のために頑張り続けたという自らの誇りにもなっています。ただ、その当時は、未来のことを想像していたわけではない、ただ、自分にできることを、懸命にやっていただけだった、そんな風に思うのです。
 
席を譲った高校生、彼のことを考えてみたとき、このことは、もっとはっきりしました。彼の頭にあったのは「暑くて大変そうな妊婦さん、席を譲りたいけど、それも押しつけがましい。なにか、今、できることはないものか」その気持ちが、隣の駅で降りるんで、とっさに嘘をつかせただけ。まさか、自分の行動を見た親子に、優しさの意味を教えるために、しかも、何年もの後に効いてくる薬として、あんな嘘をついたはずはありません。
 
そこには、将来のビジョンがあったわけでもない。誰かの成長を後押ししたい、そんな気持ちがあったわけでもない。彼らは「今」なにができるか、自分の周りにいる人たちを「今」幸せにするために、何ができるのか、その思いに従って行動しただけ。
 
でも、その結果、振り返ってみれば、彼らは、間違いなく、誰かを幸せにしています。周囲を成長に導いています。そう、彼らは「今」に生きるリーダーなのです。
 
 
リーダー、この言葉から、最初にぼくがイメージしたのは「前」でした。汽車の一番前の車両のように、みんなの前に立ってグイグイと引っ張ってくれる人です。
 
次に浮かんできたのは「後ろ」でした。あくまで主役は選手たち、監督やコーチができるのは後ろからそっとサポートすること、矢野監督です。
 
そして、ぼくは混乱しました。リーダーとは「前」であり、「後」である。なにか真ん中がスポッと抜けている感じ、つながらないのです。
 
でも、今、わかりました。欠けているピースが何なのか、沁みる夜汽車の登場人物たちが教えてくれました。
 
それは「今」でした。
 
「前」と「後」、それは見方を変えれば「未来」と「過去」です。そして、その間にあるものといえば、そうそれは、「今」寝台列車に乗り続けた父親、席を譲った高校生、彼らが生きていた「今」です。リーダーとは、過去であり、未来であり、そして今である、そう思った時、リーダーとはなんなのか、この問いに答えられそうな気がしました。
 
 
未来のことは誰にもわかりません。スティーブ・ジョブズであっても、孫さんだって、それは同じ、わかっている未来に向かって誰かを導いているわけではないでしょう。でも、きっと、彼らは信じているのでしょう。「今」と「未来」がつながっていることを。だから、今、できること、今、ベストと信じることを全力でやるのです。
 
でも、彼らはなぜ、それほどまでに強く「今と未来」のつながりを信じられるのでしょうか。そのパワーの源、それは「過去と今」のつながりです。スティーブ・ジョブズや孫さん、リーダーと呼ばれる彼らは知っているのです。積み重ねてきた過去が彼らを作ってきたことを。
 
矢野監督だって、それは同じです。自分で自分を克服してほしい、彼が、選手たちにそう願うのは、「あの時の自分」があるから「今の自分」がある、そう確信を持っているからなのではないでしょうか。
 
彼らは信じているのです。「過去」が「今」を作り、「今」が「未来」を作っていくことを。だから、今、できること、今、ベストと信じることに全力を尽くせるのです。
 
リーダーとは、過去・現在・未来のつながりを信じ、そして、今に全力を尽くせる人
 
そう気づいたとき、ふっと、心が軽くなりました。リーダーは、なにも特別な人に限った話じゃない、そう思えたのです。寝台列車に乗り続けた父親、席を譲った高校生が証明してくれました。彼らは、「今」できることに集中しました。そして、結果的に周囲を幸せや成長に導きました。彼らにできるのなら、「今」に全力を尽くすことなら、ぼくにだって、そんな風に自分の中に小さな自信が湧いてきたのです。
 
 
その時のこと、ふと思い出したのは、かつての英語の先生の言葉、Leadは、かならず to とセットですよ。Lead to Xと「導く対象」が必要ですよ、と教えてくれた、あの言葉、リーダーにとってのXが見えました。
 
リーダーとは、過去・現在・未来のつながりを信じ、今に全力を尽くす人。そして、ぼくたちに「今」の大切さを気付かせてくれる人、ぼくたちを「今」に導いてくれる人
 
沁みる夜汽車が、すべてをつないでくれました。目を閉じると、浮かんできたのは線路。過去と今をつなぎ、未来へと続く線路でした。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
いむはた(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)<

静岡県出身の48才
大手監査法人で、上場企業の監査からベンチャー企業のサポートまで幅広く経験。その後、より国際的な経験をもとめ外資系金融機関に転職。証券、銀行両部門の経理部長を務める。
約20年にわたる経理・会計分野での経験を生かし、現在はフリーランスの会計コンサルタント。目指すテーマは「より自由に働いて より顧客に寄り添って」

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2021-11-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.148

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