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週刊READING LIFE vol.148

地獄を抜けるには、自分をさらけ出す勇気が必要だった《週刊READING LIFE Vol.148 リーダーの資質》


2021/11/22/公開
記事:緒方愛実(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
人間、生きていると色々な事がある。思い出して、ニンマリしてしまう楽しい思い出、胸が引き絞られるような悲しい思い出、その時受けた自身の感情が濃いほど、記憶に刻まれる。
私の脳に焼き付いて離れない、ある思い出。
それが脳裏に駆け巡る度、私は、自分の胸を掻きむしりたくなる。
10代後半~20代の頃の私に、
「タイムマシーンがあったら、どの時代に行きたい?」
そう聞けば、
「14歳の時代に遡って、あの時の私の首を締めて、亡き者にしたい」
淀んだ瞳で、真顔でそう答えるだろう。
それほど、私は未だに懺悔の思いを抱き続けている。
ふとした瞬間に、思い出してしまう、消せない過去の罪。
 
それは、若きリーダーであった私の、大きな失敗の記録。
大切な後輩たちを傷つけてしまった、苦い思い出。
大人になった今ならわかる、あの時の私に決定的に足りなかった2つの要素。
それは、傾聴と、自分の弱さをさらけ出す勇気。
それがあれば、みんなで最後まで笑っていられたかもしれない。冷静に振り返れば、簡単なことだ。だが、それを、私はできなかったのだ。
 
私は、中学生時代、演劇部に所属していた。
文化系の部活の中でも、演劇部というのは希少な分類にある。人気の吹奏楽部のように、部員などの規模も大きくなく、演劇部自体、存在する学校の方が少なかった。
年に2回の、地区ごとの中学校の演劇部が集まっての合同演劇発表会は、私たちの貴重な大きな晴れ舞台だった。中学生時代は、他校と競うものではなく、交流会のような意味合いで開かれていた。演劇の世界も、レベルの高い、低いといのはある。声が会場に響き渡るほどの発声・滑舌、演技力があるか。無料公開観劇とはいえ、演劇を発表する側も、一般の観客もそれをシビアに観ている。
我が校はというと。
「あ、次、A中学校の発表だよ、観なきゃ!」
「キャー、A中学校のBさんだ!」
他校の生徒から黄色い声が上がることもあった。また、終演後に専門家からいただける講評の場面で、「どこかのプロの劇団に所属しているの?」と、高評価をいただく部員もいた。
地区の演劇部界では、なかなかレベルの高い方であったように思う。
舞台上で輝く先輩方の姿に憧れ、私は演劇部に入部した。
そして、その理由を痛感した。
 
「じゃあ、今日もこのメニューで行くからね!」
「はい!」
当時の3年生の部長が、黒板に書かれた白い文字を指差し、私たちは元気よく返事する。
演劇部は、文化部に分類をされているが、それは間違っている気がした。
舞台に立って、滑舌よく発声するためには、発声練習が必要。
良い発声には、腹式呼吸、腹筋などの筋肉が必要なので、背筋と腹筋などの筋トレが必要。
それらの筋肉、コンディションを総合的に鍛えるには、持久力が必要なので、体操服に着替えて、校舎の外周を数周、プチマラソンをしなければならない。
役者には、筋肉も必要なのだ。
そして、週に数回、台本を音読して演技する練習、台本読みをする。地区大会前には、セリフを暗記したこと前提の、立ち稽古を行う。
舞台の華やかな世界の9割は、スポ根でできているのだ。
私が1年生だった当時、1・2・3年生を合わせ15人ほど。9割が女子で構成されていた。
10代でも、女子は女子。女性が複数集まるとどうなるか。
「今日も、いつものメニューをしましょう!」
そう言って取り仕切る、部長を中心とした、真面目で規律正しい3年生グループ。
「もっと、台本読みもしたいよね」
和気あいあいとした、賑やかで楽しい2年生グループ。
それらの動向を伺いながら黙って従う私たち1年生グループ。
一見、タイプが違い、まとまりがあるように思われるだろう。だが、違う、ということが摩擦になることを、13歳の私は知ったのだ。
 
「ちゃんと真面目に練習しなさい! 嫌なら来なくていいから」
そんなドラマのような言葉が部長の口から飛び出すこともあった。そういったことから、上級生グループ同士の小さな衝突が発生することもしばしば。
日々、何かしらのピリッとした空気が流れた。下級生の私たちは、一塊になり追い立てられた子羊のように、2組の間でプルプル震えるしかなかった
だが、今思うと、3年生グループの意志の強さ、リーダーシップ力は相当なものだった。厳しさは別として、全員の力量を見極めてのスケジューリングなど、大人になった現在でも、なかなかそんなリーダーには出会えていない。きっと、今でも仕事などに活かしていることだろう。
そして、春が来た。卒業、入学のシーズンだ。
厳しい彼女たちは卒業し、晴れて2年生グループが最上級生となり、部長も代替わりした。
賑やかで楽しい彼女たちである。スポ根練習の筋トレパートは減った。それに変わって、発声練習や台本読みなどに力を入れていた。地区大会に向けてのスケジューリングが遅れてしまい、少しバタつくこともあったが、最後はキッチリ締めてまとめ上げた。代が変わっても、A中学校の演技力の高さ、他校生からの人気を守っていた。
そして、また春が来る。
私たちが最上級生として、代わる番だ。
「一生懸命やります、よろしくお願いします!」
壇上で頭を深く下げる私に、部員のみんなが笑顔で拍手をくれた。
私は、立候補し、部内の選挙の末、演劇部の部長となった。
居場所をくれた大切な演劇部を守りたい、部長になることで、自分に自信を持ちたい。その一心での決意表明だった。
だが、私は、すぐに壁にぶち当たる。
部長として、どうするのが正解なのか、わからなかったのだ。
 
3年生のように、部員に厳しくすることで、規律正しく部活を行えばいいのだろうか。
いや、そしたら、部員の仲に亀裂が生じるかもしれない。
2年生のように、ゆるく楽しく、和気あいあいと部活を行えばいいのだろうか。
でも、後からバタバタすることもあるかもしれない。
 
考えた末、新部長の私は、双方のやり方を織り込めつつ、みんなの好きなようにしてもらうことにした。
スポ根練習も、発声練習もほどほどに。
みんなの気が楽なように、ゆるく部活を楽しめばいいのではないか。
そう、1人で決めた。
 
部長の言うことである、みんな素直にそれに従ってくれた。
誰かがきつそうにしていたら、「よし、今日はここまでにしよう」そう、独断で切り上げた。
誰からも、反対意見はない。これでいいのだと、そう思っていた。
気がつけば、楽な方へ楽な方へと転がっていたのに、私もみんなも気がついていなかった。
次第に、練習はおろそかになり、ただ楽しく台本読み練習と、おしゃべりするためにみんなで集まっている空間が形成されていった。
私は、地区大会などのことで頭がいっぱいで、部員のみんなのことを見れていなかった。
同級生の部員は、受験のため塾など多忙な子もいた。全員が顔を合わせる機会も少ない。
 
私は、部長なのだから、1人でなんとかしないと!
 
その頃の私は、自分としか話をしていなかった。
 
「ねぇ、2年生のCさんが演劇部辞めたいって、言ってるよ?」
「え、Cさんが!?」
同級生の部員から、そう教えられ、私は目を見開いた。
Cさんは、下級生の中でも、ずば抜けて演技力も熱意もある子だった。そして、将来は役者の道へと進みたいという夢があった。
そのCさんが、退部を希望しているなんて、衝撃だった。話によると、「練習をせずだらだらする今のこの空気が嫌だ。私は、演劇を真面目にしたいのに」と言っていたらしい。
頭の中が真っ白になった。
 
そんな、私はただ、みんなのやりやすいように、演劇部を楽しくしたかっただけなのに。
 
すぐさま私は、翌日の演劇部の練習の機会に、部員全員を集めて、会議を行った。
それは、「これから演劇部をどうするか?」というより、「私が間違っていましたごめんなさい、Cさんどうか辞めるなんて言わないで」の会だ。
円形に丸く配置した机の天辺、お誕生日席で、さめざめと泣く私の謝罪記者会見だった。
Cさんは、何も言わなかった。
そりゃそうだ、吊し上げの様な形で名指しで「この人は退部しようとしています!」と議題にされているのだ。発言したいと思うはずがない。
縦に首を振らないCさん。
私は、彼女の心変わりを信じて、何度もこの会議を行った。
部室に加害者の私のすすり泣きだけが響く。
Cさんはもちろん、同級生も下級生の部員も何も言わない。
誰も、私の行動に肯定も否定もしない。
ただ、同じ時間が繰り返される。
 
地獄だ。
 
その時期、3年生グループであった先輩の1人から、自宅に電話がかかってきた。なぜか、彼女は、今の地獄の現状を知っていた。
「部長なんだからしっかりしなさい!」
久しぶりに間近で聴く、叱咤激励。
そこで、ますます私は萎縮してしまう。
 
10代の私は、思春期の煮凝りのような生き物だった。
自己肯定感が地を這うように低く、自分のことが大嫌い。
だから、自分が他人から肯定されるなんて、露とも思ってなかった。
だから、自分も他人も信用しない。
がんばらない私は、人に愛される価値がない、ダメなやつ。
だから、他人に甘えてはいけない、自分の足で立たないと。
 
1人で、なんとかしなければ!
 
そう思い込んでいるので、同級生はもちろんのこと、顧問の教師、両親などの大人にも、自分が抱えている問題を、公開しようとしなかった。
いや、できなかったのだ。
愛されてるとは思っていないから、これ以上、みんなに嫌われたくはなかった。
だから、「今、困っているの、どうしたらいい?」そんな質問すらできない。
 
助けて!
 
その一言が言えなかった。
蟻地獄の巣に落ちた蟻のよう、誰にも手を伸ばすことができないまま、私はゆっくりと地獄に吸い込まれて、息ができなくなっていく。
 
その現状を外から見ていた、同級生たちはどう思っていたのだろうか。
私がワンマンに見えたかもしれない。
あるいは、あの子ならどうにかなる、そう信じて待っていたのかもしれない。
「私たちに相談もしてこないし、何か考えがあるのだろう」
そう思われていたかもしれない。
 
「そろそろ、地区大会の練習をしないと、まずいんじゃない?」
同級生の一言で、地獄に終止符が打たれた。
今までの停滞していた時間の遅れを取り返すように、みんなで一丸となって練習に打ち込んだ。
だが、私の罪が消えることも、浪費された時間が巻き戻ることはない。
 
冬の、最後の舞台が無事、大盛況の内に幕を閉じた。
春が来た。
私たちは卒業し、Cさんは演劇部を去っていった。
 
卒業して、数年後、一度だけ、Cさんの姿を見かけた。
私は、思わず「あっ」と口の中で小さく呟いた。
でも、それだけだ。
彼女に駆け寄ることも、謝罪することも何もできない。
ただ、時が止まったように足をすくませて棒立ちした。
 
今更、何を言えばいいのだろう。
前を向いて進んでいる彼女の時を、あの地獄に巻き戻すことはすべきではない。
私が言えたことではないが、でも、願ってしまう。
今、彼女が役者の道を進んでいるかはわからない。
けれど、どうか、あの朗らかな笑顔で、あなたの魅力を存分に活かし、人生を楽しんでいますように。
 
私は、遠ざかっていく彼女の背中を見つめ、勝手に痛む胸を、叱咤するように服の上から握りしめた。
 
あれからもう十数年経った。20代までは、タイムスリップして自分の首を締めてやりたかった。その衝動が薄れてはいるけれど、あの時のことを思い出すと、内臓がかき混ぜられるような、懺悔の痛みと悲しみが、今も変わらずこみ上げる。
社会人経験、人生経験をそれなりに積んで、さまざまな出会いがあった。
中にはワンマンな方もいたが、人生のお手本になるような素晴らしいリーダーたちに出会うことができた。
その方たちを観察し、自分の至らなさを痛感する。
昔のように、ただ泣くだけの子どものままではいられない。
未来の自分と、今後同じグループで一緒に事業をする方々のためにも、私は変わらなければいけない。
 
あの時の私に足りなかったのは、傾聴と、自分の弱さをさらけ出す勇気。
周りの動向を観察し、みんなの意見を冷静に聴き立ち回る、柔軟さが必要だ。
問題を抱え込んで、自分1人の力で何でもしようと思ってはいけない。
「私はこれに困っています、助けて!」
他人に、意見を求めること、助けを乞うことは恥ずかしいことじゃない。
チームのみんなは、同じ方向を目指す仲間だ。
独りよがりに、勝手な行動をする方が、和を乱すことに繋がる。
勇気を出して、手を伸ばそう。
そうすれば、その震える手を、必ず誰か握って引っ張り上げて、道筋を一緒に考えてくれるはず。
完璧な人間なんていない。
ちょっと、ウィークポイントがある方が、親しみやすいかもしれない。
メンバーの状況を把握し、要所で声をかけて、自分の現状も包み隠さずオープンにする人間こそ、リーダーの資質がある。
そんな背中こそ、みんな慕い、ついて行きたくなる。
 
もしも、タイムマシーンがあったなら。
14歳の若いリーダーに会いに行こう。
震える細い腕で、自分の首を締めながら地獄に落ちていく、彼女の手を取り引き上げたい。
そして、目を見ながら穏やかに伝える。
「誰もあなたを嫌っていないから。助けて、ってみんなに言うんだよ。そうすれば、みんなが助けてくれる。自分とだけ話すのは辞めて、みんなの話を聴くように。みんながどうしたいか、自分がどうしたいか話し合って。そうしたら、少しずつ変わっていける。みんなと地獄を抜けなさい」
 
勇気を出して。
それが、リーダーに必要なことだから。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
緒方 愛実(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県出身。カメラ、ドイツ語、タロット占い、マヤ暦アドバイザーなどの多彩な特技・資格を持つ「よろず屋フォト・ライター」。貪欲な好奇心とハプニング体質を武器に、笑顔と癒しを届けることをよろこびに活動をしている。

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2021-11-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.148

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