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週刊READING LIFE vol.150

イギリスは紅茶なのに、アメリカはちがう? ちょいアクティブラーニング授業《週刊READING LIFE Vol.150 知られざる雑学》


2021/12/06/公開
記事:ソフィ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

私は高校で社会科を教えている。いま、私たち教員 ーとくに社会科の教員ー には、色々なことを要求されている。ちょっと前までは、知識をとにかく詰め込んでいく、知識を得たものが偉いのだ、という認識だったのが、生徒が主体的に学んで、主体的にうごく(アクティブラーニングという)ことを要求される時代になったのだ。まぁ、つまりは教員が前に立ってべらべら喋って、ただひたすらに黒板に書かれたことを生徒が写していく……なんて授業はもう時代遅れなのである。私はその時代遅れな授業こそ、大切だとおもっているのだが……。というのも、何の知識もないような状態で、はい自分達で学んでね、問をたててね、立証してね、なんてめちゃめちゃ酷なことだし、そのあとの話し合いも無駄になってしまうと思っているからだ。問を立てて、主体的に動いていくためには、ある程度教員が導きつつ、その問の立て方や、得た知識をつかってものごとを解決するまでの導き方の例を習う必要があると思う。今回は、私が高校生に対して、「なぜイギリスは紅茶文化なのに、アメリカは異なる(コーヒー文化)なのか」ということを、習ったことをつかって復習させる取組みを紹介する。
 
「みんな大好きスタバは、どこの国発祥ですか?」
私が質問すると、それは当てられると困る! なんて顔をしてくる生徒たち。いやいや、いっっっつもスタバの話をしているキミも知らないのかあ。なんたらフラペチーノとか、スタ勉しようとか、よく言ってるのになぁ。当てるのはかわいそうだから、隣の子と確認してみて、というとおおむね、「アメリカ???」と自信なさげになんだかんだ正解できている生徒たち。
 
「そうね、アメリカです。じゃあ、アメリカはもともとはどこの国の植民地でしたか?」
これは世界史専攻……じゃなくても分かってほしいところなのだが。え? そもそもアメリカって植民地だったの? なんておとぼけ顔している生徒たち。
 
「マジか……じゃあ、アメリカって何語話すの? その言葉ってどこの言葉?」
ここまでいうとやっと分かってくれる。アメリカの言葉は英語だから、イギリスだ! とひらめいたようだ。
 
「そうだよね、アメリカはもともとイギリスの植民地でした。イギリスを飛び出して海を渡り、はるばるとアメリカに渡って生活を始めた人たちがいたよね。そう、ピルグリム=ファーザーズと言いました。その人たちって、なんでアメリカに渡ったんだっけ?」
授業でやったのになぁ、ちょっと思考系の内容になると生徒たちはポカーン。暗記でしかやってきてないなぁ、くそお! そう、アクティブラーニングどころではないのだ。
 
「アメリカに渡ったイギリス人、彼らはイギリスの中で少数派に属してたよね。そのことがきっかけで海を渡ったんだけど。多数派のイギリス人と何が違ったんだっけ?」
ここまでくると、ちらほら分かってくれる生徒が出てくる。
 
「そうだ、宗教のちがいだ。同じキリスト教だけど、イギリス国王が、自分にとって都合がいいように、かつ国民から人気が得られるように、作った新しいキリスト教……そう、イギリス国教会といったね。
……これに対して、聖書に書いてある平等を貫き、堅苦しい儀式は必要ないと考える。
さらに、個人が職に励んだ結果である、お金。仕事を頑張った人のもとには自然とお金は集まってくるから、お金は卑しいものではない、お金稼ぎもOK! と考えるキリスト教……うんうん、カルヴァン派のキリスト教だったね。カルヴァンさんが唱え始めたから、カルヴァン派。
多数派がイギリス国教会で、少数派はカルヴァン派。これは大丈夫だね?」
そうでしたね、というように頷く生徒たち。よかったァ。
 
「とくにカルヴァン派を信じる人たちのことを……そう、ピューリタンと言いました。ピューリタンは清教徒って意味だから、自分たちこそ正しいキリスト教だと主張しているんだよね。」
あ~、ピューリタン! メイフラワー号って船に乗ってきたんだよね、とささやいている生徒がいる。合っているから、もっと堂々と言ってくれればいいのに。令和の時代でさえ、日本の間違えたら恥ずかしい文化なんて、くだらないものは残っているなァ、と考えさせられるシーンだ。もちろん気持ちは分かるのだけれども。
 
「そうだよね、じゃあさ、今までとちょっとちがうことを聞くから、気軽に答えてね。
最近さ、ホテルとかでアフタヌーンティーセットを注文するのが流行っているらしいんだけど、知ってる?」
しってるう!うちも行きたい! と、こういう話に反応するのは、いつもはちょっとけだるそうにしているきゃぴきゃぴ系の女子だ。ああ、よかった、あなたもちゃんと私の話を聞いてくれてるんだね、いつもは難しい話だから、だるいんだね?
 
アフタヌーンティーは、写真が映えるんだよなァ。ちっちゃあ~いスイーツの盛り合わせと、飲み物で、1人4000円とか平気でするよね、高いなぁ。たしかにかわいいスイーツとか、季節のスイーツとか、色々のってるんだよね。それをきゃっきゃ楽しみながら過ごす時間も楽しいかな? でも、4000円だったら酒飲みたい!
……なんて思ってたら全部声に出てた。生徒たちは、先生めちゃ酒豪やん! って笑ってくれたけど、この子たち未成年じゃん。いかん、話を戻そうね。
 
「アフタヌーンティー、まぁ、つまり、ちっちゃあいお菓子と一緒に、お茶をゆう~っくり楽しむ文化って、どこの国の文化のイメージですか? ……言っとくけど、お茶って、麦茶じゃなくて、紅茶ね!」
うへぇ、全然わかんねぇ~、イタリア? スペイン? ロシア? なんて言ってる野球少年たち。お察し悪いなぁ。とりあえず知ってるヨーロッパの国挙げてるだけやん。ほとんどの生徒は、あぁ、話の流れからしてイギリスねぇ、と分かってくれた。
 
「そうだよね、紅茶を優雅に楽しむ文化といえば、イギリスです」
 
「じゃあ話を整理してみましょう。イギリスも、アメリカも、宗教の違いがあるとはいっても、同じイギリス人が生活していることになるよね。だから、アメリカに渡ってきたイギリス人だって、最初はお茶を楽しんでいたよ」
ここまでは、うんうん、と分かってくれている生徒たち。
 
「でも、今ではアメリカは紅茶、っていうよりはコーヒーのイメージの方が一般的に強いはずなんだよね、そう、スタバだってアメリカ発祥って話したでしょう?」
たしかにという反応をする生徒たち。
 
「なんでアメリカは紅茶じゃないんだろう?」
はい、近くの人と話しあってみて! の合図をする。生徒たちの反応は色々だった。さっそく教科書を開いてみる生徒もいれば、しらんがな、という態度の生徒もいる。いやぁ、ほぼ同じ年数生きていても、ましてや私の同じ授業を受けていても、こんだけ差がでるんだよなァ。それにしてもちょっとヒントが少なすぎたかもしれないので、付け加えをする。
 
「アメリカがイギリスから独立するにあたって、色々な事件があったけれど、それを順番に挙げてみたら、大きなヒントがあるかもよ」
そのヒント通り、生徒は事件を挙げていく。まずは何があったっけ……あぁ、印紙法? なんて話し合う生徒たち。
 
「そうだね、最初は印紙法について事件がありました。アメリカの全ての発行物に、印紙という切手みたいなものを貼らなきゃいけない。この切手みたいな印紙というものは、もちろんお金を払って買うんだけど、これはイギリス本国に税金として回収される。つまりアメリカは紙を発行するだけで、イギリスに税金を払わなきゃいけない仕組みだったね。例えば、本を発行するとき、チラシを発行するとき、税金を払ってその印紙を貼らないといけないの。……ひどいのは、トランプってあるよね、54枚あるでしょう。あれの、1枚1枚にぜ~んぶ印紙を貼らなきゃいけない、なんて話もあるんだよ。なかなかスゴイでしょ」
トランプ1枚1枚に印紙貼るなんてめんどくせぇ、と生徒。たしかに面倒だけど、お金じゃなくてそっちかい。
 
「けれどもこの印紙法、という法律はアメリカの人たちによって拒否されたね。その時の決め台詞はなんだった?」
生徒は色々言っているが、この決め台詞はインパクトに残っていたようだ。
 
「……そう、代表なくして課税なし! これはイギリス本国で決められた法律だけど、アメリカから代表を派遣していないのに勝手に決められた法律だから、それはおかしいでしょ、という趣旨の言葉だったね。これはイギリス本国もぐぅの音も出ずで、印紙法は取り下げられました」
 
「じゃあその次に授業で紹介した法律ってなんだった? これも、イギリスがアメリカに対して税金を取ろうとしているんだけど」
ここまでいうと分かってくれる、茶法だ! と生徒たち。
 
「そうそう、その茶法。これはイギリスの、大~きな株式会社からしかお茶を買ってはいけないよ、という法律だったね。これはなんていう会社だったかな?」
これは、中学校でも習っているから、正答率が良かった。
 
「……そう、東インド会社です。このとき、イギリスの東インド会社は、オランダの貿易力が向上してきたこともあって、打撃を受けていた。だから、イギリスはアメリカに対して、うちの国の東インド会社からしかお茶を買うな! という法律をつくったんだね。これに対して、当時のアメリカの人はこれにめちゃめちゃ怒った! だって、このときはまだ、アメリカの人たちは、イギリスに住んでいた時と同じように、お茶を楽しむ文化が残っていたからね。高~いお金でイギリスの会社からお茶を買わないといけないとなると、さすがにしんどい。日用品を高く買わないといけないのは、家計の圧迫に繋がって、しんどいからね」
 
「……そこでおこった事件、つまりアメリカの人がイギリスに対して起こした事件はなんだったかな?」
はい、ボストン茶会事件!!! と元気よく答える生徒たち。この正答率は異常に高い。
 
「そうです、ボストン茶会事件だね。よかった~! みんな分かってくれて! これは、イギリスからお茶を運んできた商船をアメリカの人たちが襲った事件でした。船に載っていたお茶を、海の中に放り込んじゃったのね。ボストンの海が全部お茶の海になってしまった、そんな皮肉の意味をこめて茶会事件と呼ばれているんだったね。茶会って、英語だとティーパーティだからねぇ、アフタヌーンティーやねぇ」
 
「……もう分かりましたか? 私が聞きたかったことは。なぜ、イギリスは紅茶なのに、アメリカは紅茶じゃないのか!」
はい、話し合っての合図をする。なんとなく分かったけど、言葉にできない生徒たち。ここで表現力を磨きたいところだけども、残念ながら今日は時間が迫っているので、私が片づける。
 
「なぜ、イギリスは紅茶なのに、アメリカは紅茶じゃないのか……それは、アメリカがイギリスから独立していく過程でおこったんだね。もともとじぶんたちの文化であった紅茶に、多額の金を払わせられると追い詰められたとき、それを捨てる潔さがあったのがアメリカ人だった。紅茶を海に投げ捨ててまでも、お前らには頼らない、こびない、むしろ闘ってやる! という姿勢を見せたんだよね。すごいな。これは本当に強いことだと私は思う」
 
「みんなは……どうだろうな、味噌汁を捨てる勇気があるだろうか、ということになるのかな? 私にとっては、自分達の生活に馴染んでいて、いなくなってはほしくない存在のはずだけど、どうだろう。高校生にはあんまり通じない?(笑) そうですか、タピオカがあればいいのか?(笑) もう古いですか、タピオカは(笑)」
高校生にとっての紅茶が見つからないのは悔しいけど、話をすすめていく。
 
「ううん、むずかしいね。いい案が浮かばないね、けれども、アメリカ人は紅茶を楽しむ、という日常の文化を捨ててまでも、本国イギリスと立ち向かうことを選んだんだね。そしてそのあと、戦争を経て独立を勝ち取ったんだ。その、彼らの熱い思いを、見習えとまではいわないが、そんな人がいたんだ、ということは忘れるなよ」
 
「その後、イギリスから独立を勝ち取ったアメリカは、中南米の先住民や、アフリカから連れてきた奴隷に対して、コーヒーを作らせた。プランテーション、という大規模な農園でね。彼らは、紅茶じゃない、また別の文化……コーヒーいう、別の楽しみを見出した。
先住民や連れてこられた奴隷は、朝から晩まで働かされて、本当に大変な毎日を送っていたんだ。ひどい仕打ちだった……ということはまた説明するから、またその時の授業でつながりを意識してみてね」
 
ふう~~~んなんて、分かっているのか分かっていないのか、よくわからない態度をとる高校生たち。まぁ、いまの私にできる最大の授業はここまでなのだろう。
週末になって高校生がスタバに行くときになって、もう一度、思い出してほしいものだ。スタバはアメリカ発祥。アメリカはイギリスから独立したが、イギリスとは異なるブレイクタイムの文化を形成した。その過程は、今私たちが平穏に暮らしていることからは想像できないほどの、壮大なものであった、ということを。その祖先の恩恵を、まさしくいま自分は受けているのだ、ということを。
 
何気ない日常は、実は世界や歴史と繋がっている、そんなことを感じてほしい、ちょいアクティブラーニング授業の備忘録でした。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
ソフィ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

やりたいことが多すぎて、何から手を付けていいかわからず、結局冷めてしまう悩める20代女子。ライティングもそのうちの一つだった。高校で社会科の非常勤講師をしている。趣味は愛犬と戯れること、海外放浪。

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2021-12-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol.150

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