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週刊READING LIFE vol.152

家族が教えてくれる、「今」を全力で生きるということ《週刊READING LIFE Vol.152 家族》

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2021/12/20/公開
記事:吉田みのり(READING LIFE 編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「今」を全力で生きていますか?
そう聞かれたら、どきっとしてしまう。
私はすぐに「今」ではなくて、「過去」のもやもやに振り回されたり、「未来」の不安におそれおののいたり、「今」を大切にせず時間を無駄にして過ごしていたり……、と「今」を全力では生きられていないと反省することが多い。が、同じ過ちを繰り返してしまう。
そんな私に、「今」を全力で生きるということを、大切な家族が体現して教えてくれる。
 
我が家は三人家族で、11歳の男の子と5歳の女の子と暮らしている。
というのは私とペットの話だ。
もちろん人間の家族もいる。父はいないが、まだまだ元気な母、独身の兄、妹とその夫、そして1歳になる甥っ子。昨年妹が無事男の子を出産してからは、母は初孫に大感激、兄も私も甥っ子に夢中で、みんなでそれはそれは溺愛している。
さて、どちらも大切な家族。とはいえ、人間の家族と動物の家族を比べるものでもないのかもしれないし、人間の家族としてはペットと自分たちが同等とは少し納得がいかないかもしれない。私以外の家族は特に動物が好きではないため理解されないだろうなとも思う。
でも、どちらも大切な、かけがえのない家族だということは、私にとっては紛れもない事実なのだ。
 
我が家の動物の家族は、子犬の頃から一緒に暮らしている5歳の小型犬と、ちょうど一年前の本格的に寒くなる前に、近所にいたのら猫がガリガリになって弱っているのを放っておけずに病院へ連れて行ってその後我が家へ迎え入れた、推定11歳の猫だ。私の全愛情を注いで、3人で仲良く(犬と猫はちっとも仲良くないが)楽しく暮らしている。
が、しかし。
動物愛護の観点からすると、一人暮らしでフルタイムで働いていて犬や猫と暮らすのは、留守番時間が長く十分な世話ができない、と動物虐待とも言われかねない。それに、独身でペットを溺愛して暮らしているのは、敬遠されがちな世間の風潮は自分でもよくわかっている。だから、犬と暮らしていることは会社の人にプライベートなことを尋ねられたときに話したことはあるが、自分から犬の話しをすることはないし、猫を保護して我が家へ迎えた話もしないことにしている。私が働いているのは小さな会社で、独身の人は他におらず、社内は保守的な考えの人ばかりで私が少し浮いた存在なのはわかっているため、これ以上浮かないように気をつけている。

 

 

 

愛犬を迎えたときは、一人暮らしで迎えたわけではなく、パートナーと一緒に迎えた。
犬を迎えることは彼のたっての希望で、彼の母親が犬が好きでずっと飼っていた、犬が家にいる暮らしが当たり前だったから、と。
私は今まで動物は好きだが母が苦手だったこともあり飼ったことがなく、ちゃんと世話ができるのかと不安だったため最初は反対していたが、彼が飼育経験があるから大丈夫だろうと何の知識もないまま、しかも今思えば安易な気持ちで犬を迎えてしまった。当時は保護犬についての知識はなく、そういう犬との出会い方もあったのに、ペットショップで買う以外の選択肢は知らず、でも今の愛犬と出会えたからいいのだが、もっと犬を家族として迎える、尊い命を迎えるということに対して真剣に情報収集や勉強をするべきだったと思う。
 
そんなこんなで、ペットショップで出会った3か月の1㎏もない小さな子犬が我が家へやってきた。
子犬を迎えてみてびっくり、あれだけ犬を飼いたい、小さい頃から犬が家にいつもいたと言っていた彼は、世話の仕方、しつけなどの知識が全然なかった。しかもかわいがるだけで世話はほとんどしない。休みの日には車で犬連れで遊べる場所にたくさん連れて行ってくれたが、「ただ歩くなんて好きじゃない。小型犬なんだから、散歩なんてしなくてもいいんだろ」と言って散歩にも連れて行かない。トイレの掃除やブラッシングなどの日々の世話もほとんどしないし、たまにごはんの用意をしてくれたかと思えば、計量もせず山盛りの、それは一日分よりも多いのでは? という量をあげてしまう。3歳になる頃までは胃腸が弱く、よく下痢をしたり吐いたりすることがあったのだが、動物病院へ連れていくのも、薬を飲ませるのもすべて私。そしてしつけがうまくいかず自分の思い通りにならなかったりいたずらをすると犬を怒ったり、私にせいにして私を責めた。それでも、愛犬の方は彼になついていた。もちろん私の言うことの方が聞いたし、私の方を頼りにしているようだったけれど、でも私に向ける愛情と同じように彼にも愛情を向けていたと思う。
愛犬を迎えて、彼の無責任さを知り幻滅はしたけれど、それでも3人で楽しく暮らしていた。
しかし、愛犬が2歳になる少し前に別れがやってきて、彼が出て行ってしまった。
その頃愛犬がどう感じていたのかはわからない。あれ、最近大きい方がいないな、それに留守番が長くなった、ひとりぼっちの時間が前より長くてさみしいな、早くどちらか帰ってきてくれないかな……。そんな風に感じていたのではないかと思う。
 
さて、愛犬と二人きりになり、これからどうしよう、と思った。今は転職して規則正しい生活ができているが、当時の私は施設の介護職員をしていて不規則な生活で夜勤もあり、残業も多かった。
まだ2歳前。平均寿命の15歳くらいまで生きるとして、残りはまだ10年以上はある。その10年以上を私と二人で、狭い世界で生きていくよりは、最初は辛くても、例えば子どももいるような家庭で、留守番もあまりしなくていいような環境で暮らすことができれば、私といるよりもずっとずっと幸せな一生を送れるのではないか……。
でも、愛犬と離れるなんて、考えられなかった。でも、「私といるよりも……」という考えも拭えず、悩みに悩んだ。
そのおかげで、というのも変だが、別れの痛みを感じている余裕がなかった。もちろんふと思い出して涙が出たり、どうしてこうなってしまったのか……という思いもあったが、でも遅かれ早かれ別れることにはなっただろうな、と納得できたのもあり、それよりは「これから愛犬と二人でどうやって生きていこう。愛犬にできるだけ寂しい思いや不憫な境遇にしないためにはどうしたらいいのだろう」ということを考える方が忙しかった。
 
悩み続けたが、やはり愛犬を手放すなんて選択肢はない。私にとって愛犬は家族で、パートナーでもあり、子どもでもある。離れるなんて考えられない……。
そんなときに、犬の闘病日記のブログを見た。ある夫婦とともに暮らしている愛犬ががいろいろな病気になった上に、目も病気になり片目を摘出した方がいいと医者から言われてしまう。手術の負担よりも先々目があることでの合併症の方が負担となる可能性があると説明され、そのご夫婦は摘出手術をすることを決意するのだが、その手術をするか悩んでいる過程で医者や周りの人たちから言われた言葉がたくさん書いてあった。
「犬は自分の片目がなくなっても、それを他の犬と比べて悲しんだりはしない。犬は他の犬と自分を比べたり、他の犬の境遇を羨んだりはしない。飼い主さんからの愛情があれば、犬はただただその愛情を受け入れ、飼い主さんを愛し、すべての自分の境遇を受け入れる」と。
心に刺さった。思い切り、この上ないくらい。嗚咽しながらそのブログを読んだ。
犬は、人間みたいに、隣の芝生が青く見えることなんてないのだ。もちろんそれは選択の自由がなく、自分の運命を受け入れるしかないからに他ならないのだが、でも「簡単に別れたりしない人たちに迎えてほしかった」とか、「留守番しなくていい家庭がよかった」とか、「もっと広い家でお庭がある家がよかった」とか、そんな思いを抱くことはないのだ。
私自身も、今までいろんな場面で言われてきたし、本にもたくさん書いてあった。誰かと比べても仕方がない、比べるべきは過去の自分、誰かを羨んだり勝とうとするのではなく、過去の自分より成長することを目指すべき……。
犬は過去の自分と比べることもないのだろうが、とにかく「今」を生きている。誰かを羨むこともないし、明日の心配をすることもない。とにかく「今」を楽しく心地よく、「今」飼い主の愛情がほしくて、「今」飼い主に愛情を伝えたくて生きている。
 
それからは、もう私といるのはかわいそう、と悩むことはやめた。もちろん、思うように時間が取れなくて申し訳ないことも多い。残業は極力しないが、緊急の対応があったりして帰りが遅くなってしまうことだってある。
その分、一緒に過ごせるときにあふれんばかりの愛情を伝えよう、と心に決めた。
しかしそう決めたものの、それでも私の精神状態にもより、迎えられた家が私たち、のちに飼い主が私一人になってしまうような家ではなかったら……、猫を迎えてからは保護したのが私ではなくて、お金持ちの広い家に住んでいる幸せなファミリーだったら……、という思いが消えない部分もある。猫は私が保護しなくても誰かがなんとかしてくれた可能性もあるが、でも市内の保護団体に相談しても「自分でなんとかしてください」だったし、あの日に保護できていなかったら翌日にはもしかしたら死んでしまっていたかもしれない可能性もあると思い、行動してよかったと思うことにしている。
しかし、猫を迎えたことについて後悔、というのとも違うのだが、先々にくる命とのお別れを思って、どうして迎え入れてしまったのだろう、とも思う。
愛犬との別れを考えただけでもおそろしいのに、愛猫との別れもこの先経験しなくてはならない。
でもそれは、動物と暮らしたもののさだめであり義務である。そんな場面に立ち会いたくはないけれど、でもちゃんと天寿をまっとうするまで見守るのが私の当然の務めだ。
だからこそ、「今」を大切にしなくてはならないと思う。見送るときに「もっとあのときに……」という後悔はしたくない。

 

 

 

過去の失敗をくよくよしたり、未来の不安を思って悩んだり、彼らはそんなネガティブな気持ちは持ち合わせていない。でも、彼らには本当に「今」しかないのかというとそんなことはなく、過去の失敗や嫌だったことは覚えているから同じことはしないし、お留守番をしても飼い主は必ず帰ってきてくれるとわかっているからおとなしく待っていられるわけだし、飼い主の行動から未来を予測して「散歩だ!」「ごはんだ!」等と期待することだってできるし、飼い主の顔色を窺うことだってできる(そんなことをさせてはいけないのだけれど)。
「今、おなかがすいた! ごはんが食べたい! おやつがほしい!」
「今、眠い。だから寝る」
「今、遊びたい! かまって!」
「おかえり! 寂しかったよ! 大好き!」
これで、いいのだ、私だって。
「今」の自分の気持ち、欲望に素直になって、もちろん社会生活はまともに営める程度にだが、「今」を大切に生きたい。
犬の散歩をしながら仕事のもやもやを考える、猫と遊びながら明日の不安を思って上の空になる……。こんな接し方では彼らに失礼だ。全力で「今」を生きる彼らには、全力で一緒に「今」を生きなくてはならない。
それは仕事や他のことも同様で、「今」仕事に集中する、趣味に集中する、心から楽しんだり真剣になる、そういう姿勢が常に必要だ。まだまだ精進が必要ではあるが。
そうやって癒やしをくれるとともに、生き方まで教えてくれる愛犬と愛猫は、私にとってはやはり人間の家族と同じくらい、大切な大切な家族なのだ。
一日でも長く生きてくれるように彼らの健康管理を気を配り、そして最後まで責任もって面倒をみられるように私自身の健康にも気をつけて、そして災害時や万が一私に何かあった場合のことも考えて準備をしておいて、「今」を一緒に全力で生きていきたいと思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
吉田みのり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

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2021-12-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol.152

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