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週刊READING LIFE vol.153

透明人間はそれでもやっぱり物申す《週刊READING LIFE Vol.153 虎視眈々》


2021/12/27/公開
記事:赤羽かなえ(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
2021年12月は、心の膿を絞り出すような日々だった。
 
それは、とある集まりから始まった。
 
遅れて到着した時、3メートル先にAさんがいた。
 
せっかくの楽しいランチだったのに、上がっていたテンションが半音階下がってなんだか気持ちがしぼんでいく。
 
彼女の前に行くと、なんだか透明人間になったような気分だ。まるきり自分がいない人のように扱われる。彼女からしたら、私もそういう存在なのだろうけど。
 
もう、何年も経っているからいいじゃない、そう思ってなるべく普通にふるまうようにした時期もある。でももう、それにもなんだか疲れて、堂々と透明人間でいようかと思ってしまう。それでもやっぱりモヤモヤする。
 
でも、Aさんがいたおかげで、人との向き合い方をいつも考えることができている。
人を変えることはできない。変えることができるのは自分だけ。
でも、それは、自分が我慢することではなくて、思ったことは伝えればいい。
伝えた上で、変えるか変えないかはその人次第で、自分はバトンを手渡すまでが役割なのだ、ということを。
 
その日を皮切りに自分の対応を確認テストするための在庫一掃大セールみたいな日々が始まった。

 

 

 

「もう、いいです」
 
数年前、行間にうんざり、という空気をまとわせた一言と共にAさんからの返事は一切なくなった。気が付けばSNSもブロックされていた。やり取りから一人残された私は、虚しさとモヤモヤだけが降り積もっていた。
 
妹分のようだった彼女の活動が少しでも応援したくてイベントを主催して開いた。その時の彼女の振る舞いや対応が講師のふるまいとしては不十分だとその当時は感じたから、次回以降の参考になるように、とアドバイスをしたつもりだった。でも、伝えても、伝えてもAさんは、自分のふるまいの足りない部分を受け入れてくれなかった。それどころかもういい、と、一方的に関係も打ち切られた。
 
Aさんとのやり取りが途絶えてからは、後悔が育っていった。もっと、上手く伝える方法はなかったのか、正しさの押し付けになってしまったのではないか。それだけでは気持ちは収まらず、自分を正当化するために、彼女にどうして伝わらないんだと友達に不満をぶちまけたこともあった。
 
今から考えれば、本人に伝わらなければ、生産性のない愚痴だ。
 
しかも、その愚痴への共感が周りに気持ちの良くない流れを作ってしまうのは、汚水をそのまま川に流しているような後ろめたい気分になっていた。
 
その一件があってから、人に伝えるときには、なるべく伝わりやすいように、嫌になるところまで言わないようにと気を使うこともようになった。しかし、それもなんだか上手く伝わらないようで、その都度モヤモヤしながら試行錯誤してきた。
 
なんでこんなに何年も何年もAさんとのモヤモヤは解消しなかったんだろう、今更、透明人間的な扱いを受けたって慣れっこだろうに。なんでモヤモヤ抱え込まなければいけないのだろう。
 
そんなモヤモヤを引きずったのだろうか、自分が相手に対してやめてほしい、ということをはっきりと伝えなければいけないような事件が立て続けに起こった。
 
最近気づいたのだが、トラブルに正義と悪の構図は意外と少ないように思う。
 
自分の正義と相手の正義が戦うから、いつまで経っても歩み寄れない、そんなことが多くある。自分が正義で相手が悪だと思い込んでいるからこそ、正義という刃で人を傷つける。
 
あの当時は、そんなことにすら気づいていなかった。だから、言っていることは確かに正論だったけれど、Aさんが耳をふさいで心を閉じるまで追い込んだんだろうな、と思う。
 
この年末に起こったトラブルもまさにそんな感じだった。相手のBさんは、信念があって、自分がいいと思うものを私の周りの人達に勧めていた。もちろん、それをいいと思って購入する人もいて満足している人もいたが、一方でそれを勧められることがストレスで困っている人もいる。
 
それを黙って見ていることは簡単で、そっとBさんから離れてしまえばおしまいだ。でも、私が直接言わなければ、良くない噂も流れるだろう。それはBさんにとっても良くないと思ったので、私はそのことをBさんにはっきり伝えることにした。
 
やはりBさんは、自分が良いものを勧めているので納得がいかなそうだった。Aさんの時のように、私は、Bさんにとっても透明人間になってしまうのか。
 
「そもそも、こんなことを言わなければいけない私の身にもなってくださいよ。一体、誰得なんですか?」
 
あまりにも平行線が続いて、私の口から出てきたのは、こんな言葉だった。自分でも思いがけない言葉が出てびっくりしたのだが、一度出たら止まらなくなってしまった。
 
「周りからきた噂話をそのまま聞くだけ聞いて、その噂が回って評判が悪くなってもだまっていることだってできるんです。でも、敢えて、お互いに嫌な思いをしても、伝えなければいけないことだから伝えているんです」
 
Bさんはハッとして私のことを見て「ありがとう」と小さな声でいってくれた。あとは、Bさんの問題だ。自分が考えて行動すればいいわけで、私がこれ以上は口を出す必要はない。
 
Bさんとのやり取りを通じて、Aさんとのやり取りの中で自分自身がひっかかり続けていたことにも気づけた。Aさんに親身になって伝えているということが受け入れられない悲しさがあるのかもしれないと思った。
 
少し落ち着いてから、Aさんに対して、自分の中でどういう感情が湧き上がったのか、というのを振り返ってみた。
 
Aさんとのやり取りでモヤモヤしていた時の感情を書き出してみたら、一番最初に出てきたのは、
 
「自分の言うことが無視されて悲しい」
 
という感情だったのに自分自身がすごく驚いた。自分の意見の正当さが伝わってほしいとか、Aさんのためにやっているという正義感の前に、自分がないがしろにされたことに対する傷が残っていたのだ。
 
ああ、もう、終わりにしよう。自分が自分を良いと思えばそれでいいじゃないか。Aさんだけでなく、私自身も自分のことを無視していたんだ。
 
いつも慕ってくれていたAさんに受け入れてもらえなくて悲しかったよね。
SNSをブロックされて悲しかったよね。
Aさんを見かけるたびに無視されてつらかったよね。
今だって、普通に話したいと思うのに透明人間みたいで虚しいよね。
 
次々と湧き出て来る数年来の感情に、心に溜まっていた涙が一筋頬をつたった。
もう、何年もくすぶっていた思いに、さよならをすることができそうな気がした。
 
この事件があったおかげで、自分と人とのやり取りをしっかり見直すことができた年末になった。Aさん自身とは、もう一生話すことはないかもしれないけれど、Aさんとのやり取りが私の人への対応力を磨いてくれたのだから、Aさんには心から感謝をしている。
 
Aさんとの教訓も踏まえつつ、私は相変わらず、言いたいことははっきりと伝えている。誰からも表立っては嫌われることはなく、必要であればモノ申すこともできるようになってきたように思う。Bさんの件の他にも、ごたごたはあったが必要以上の波風は立てずに対応することもできた。
 
でも、時々、思うのだ。いつかはお互い、透明人間ではなく私として、Aさんと率直に話ができたらいいなあと思っている。
 
そんな機会を虎視眈々と狙っている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
赤羽かなえ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

自称広島市で二番目に忙しい主婦。人とモノと場所をつなぐストーリーテラーとして、自分が好きなものや人が点ではなく円に縁になるような活動を展開。2020年8月より天狼院で文章修行を開始し、身の上に起こったことをネタに切り取って昇華中。足湯につかったようにじわじわと温かく、心に残るような文章を目指しています。

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2021-12-22 | Posted in 週刊READING LIFE vol.153

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