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週刊READING LIFE vol.155

1人暮らしは、人生という名の大学における必須科目である《週刊READING LIFE Vol.155 人生の分岐点》


2022/1/31/公開
記事:mihana(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
31年間の人生で、一番後悔していることがある。
27歳で初めて、1人暮らしをしたことだ。

 

 

 

1人暮らしは寂しい。
 
朝、ぼんやりとトーストを食べながら、テレビニュースを眺めていると、ふと始まる12星座占い。「今日は最下位かぁ……」と声に出してみても、当然ながら、慰めてくれる人はいない。
せいぜい妄想の中で、架空の同居人を作りあげ、
「ラッキーアイテム、トーストだって。きっと良い日になるよ」と言わせるしかないのだ。
 
1人暮らしは切ない。
 
一緒に過ごす人がいない年末年始を迎えると、一年で一番、憂鬱な気分になる。
昨年のクリスマスイブ、家族連れがホールケーキを買っているのを横目に、
行きつけの魚屋に行くと、店主のおじちゃんに、「明日も来るだろ?」と言われた。
 
明日って、クリスマス当日じゃないか。私はこれでも、31歳の結婚適齢期の女性だ。
共に過ごす彼がいたって、全くおかしくない。なめられたものだと、悲しい気持ちがこみあげる。
 
しかし、食欲には勝てない。
私は翌日も、どうしてもマグロの刺身が食べたくて、魚屋へ行ってしまった。
もしかしたらおじちゃんには、予知能力があるのかもしれない。
 
とにもかくにも、1人暮らしは、寂しく、切ないものなのである。

 

 

 

そもそも私は、1人暮らしなどする必要はなかった。
大学も会社も、家から通える距離にあったし、同じように実家住まいの友人も多かった。
 
しかし、社会人になり数年経つと、人生の分岐点を迎える人が増えてくる。
転職したり、起業したり、結婚したり、子供が生まれたり……。
 
それに比べて私は、実家と会社の往復をする日々。毎日が同じ繰り返しだ。
周りは着々と、自立しているというのに。
 
「ここで奮起せねばいかん」
社会人5年目の27歳の時、私は強く、そう思った。
 
そして自分で、「1人暮らし」という分岐を作り出すことにした。
必死で住む家を探し、実家からの大脱出に成功した。

 

 

 

1人暮らしを始めた当初は、ものすごくワクワクした。
 
自分だけの部屋を持ち、24時間、好きなように時間を使えるのだ。
遊びに行くのも自由。何を食べるかも自由。夜更かしするのも自由。誰に断ることもない。
 
「どうしてもっと早く、1人暮らしをしなかったのだろう」と、
過去の自分に文句の一つや二つ、言ってやりたくなるほど、私は1人の生活が気に入った。
 
しかし、間もなく、自由は大きな代償を伴うことに気付いた。終わることのない家事地獄だ。
 
初めてとは不思議なもので、全ての苦労が、脳内で“楽しい”に変換されるのである。
洗濯や掃除をする度に、「すごくきれいになった」と、喜びを感じる。
料理をする度に、「私って、こんな料理も作れちゃうのね!」と自分を褒めてみたくもなる。
 
だが、人はやがて気づく。これが、エンドレスで続いていくことに。
洗濯物は、毎日増える。掃除をしないと、日々汚れが溜まる。ごはんを食べない日はない。
 
実家に居た頃は、“手伝う”という感覚でいた家事が、全て自分に襲いかかってきた。
「ああ、これが1人で暮らすということなのだな……」と、しみじみ実感した。

 

 

 

悪戦苦闘しながら、やっとの思いで家事に慣れた頃、ふと思った。
1人暮らしをすることは、自分自身の社長になるようなものなのではないかと。
 
何に、いくら使うか。決めるのは全て私だ。
お金のセンスが、常に問われている。
 
実家に居た頃は、どんぶり勘定も許されていたが、
1人暮らしたるもの、一銭たりとも、無駄にすることは許されない。
早速、スマホに家計簿アプリをダウンロードして、収支を把握することにした。
 
数ヶ月貯めた家計簿データを見て、まず思ったのは、
「光熱費や水道代って、こんなにかかるのか!」ということだ。
実家では、固定費の存在を意識したことがなかったけれど、
どうやら生きていくのには、お金がかかるらしい。
 
そして、問題が起きた。うっすら気付いてはいたのだが、
やたらとエンゲル係数が高いことが、アプリにより可視化されてしまったのである。
とはいえ、食費を削る、と言う選択肢は、私の中になかった。私は食べるのが大好きなのだ。
 
もちろん、無駄な出費はない方が良いが、
本当に必要な部分を削ってしまっては、会社の運営は難しくなる。
自分という会社を育てていく上では、必要な部分にはきちんと投資せねばならない。
日々財布を出す度に、経営判断が求められているのである。

 

 

 

社長として、会社の舵取りを余儀なくされた私は、
ロダンの彫刻作品、「考える人」のように、常に悩んでいた。
 
実家に居た時には、自分でものを意識的に買わなくても、
家族の誰かが買ってきた「なんとなく家にあるもの」で過ごせてしまっていた。
 
しかし、1人暮らしとなると、自分の家に存在するものは、
基本的に全て、自分が決断をして買ったものだけだ。
「なんとなく家にあるもの」が、一切なくなる。
 
私は優柔不断なので、毎回どんなに小さなことでも、自分会議を行った。
「卵はどのブランドが良いか?」「トイレットペーパーはどのスーパーで買うか?」とか、
そんなレベルのことでも、真剣に考えた。
 
体を前傾姿勢にして、腰が痛くなるほど悩んだ。
悩みすぎと関連しているかどうか分からないが、昨年には一度、ぎっくり腰で通院もした。
 
通院はさておき、「考える人」になることは、悪いことばかりではなかった。
 
「このブランドの卵は、黄身が濃くておいしい」とか、
「このスーパーのトイレットペーパーは柔らかくて良い」とか、
自分の「好き」の在処が、分かるようになったからだ。
 
そして、自分が考え抜いて選んだもの、好きなものに囲まれて生活をするようになると、
毎日が少しずつ、楽しくなってきたのだ。

 

 

 

冒頭に私は、27歳で初めて1人暮らしをして、後悔していると言った。
しかし、それは実家でずっと暮らしていればよかった、ということではない。
 
もっと早く、実家を出て1人暮らしをすれば良かった、ということだ。
寂しさや切なさ以上に、もっと大きなものが得られると、私は確信しているからだ。

 

 

 

1人暮らしをしたことで、ある意味、私は「卒業」をした。
”娘“という役割を、卒業したのだ。
 
実家にいるとき、私はあくまでも家族の一員であった。
その中にいる限り、“娘”という枠から、逃れることが出来なかった。
 
いい“娘”でありたい、またあらねばならないと、自分に言い聞かせ、
その役割を、演じていたような気さえする。
 
しかし、1人暮らしでは、いい“娘”である必要はない。
自分という1人の人間としての視点を持つようになると、徐々に変化が起きた。
 
「何をしているときが楽しいのか?」
「どうやって生きていきたいのか?」
自分と対話をするようになった。
 
「このままで良いのだろうか?」
「もっとやりたいことはないだろうか?」
ちょっとした違和感にも、敏感になった。
 
何より、自分に正直に、楽しく生きていきたいと思うようになった。

 

 

 

人生を楽しく生きるスキルは、誰かが手取り足取り、教えてくれるものではない。
それはきっと、自己との対話を重ね、自己理解を深めることでしか、手に入らない。
 
1人暮らしは、そのスキルを身につけることが出来る、実践の場なのではないだろうか。
人生という名の大学における、必修科目といっても過言でないと、私は考えている。

 

 

 

実家にいて、1人暮らしをしようか、迷っているあなた。
1人で住める部屋を、探してみてはどうだろうか?
 
娘・息子と、同居しているあなた。
1人暮らしを勧めてみてはどうだろうか?
 
何でそんなこと言うかって?
 
それは……
私が、31年間の人生で、一番良かったと思っていることは、
27歳で初めて、1人暮らしをしたことだからだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
mihana(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京都生まれ。30代OL。2021年8月開講のライティング・ゼミ受講後、READING LIFE編集部ライターズ俱楽部に参加。趣味は入浴。

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2022-01-26 | Posted in 週刊READING LIFE vol.155

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