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週刊READING LIFE vol.156

あなたの心が病んでしまう前に読んで欲しい一冊《週刊READING LIFE Vol.156 「自己肯定感」の扱い方》


2022/02/08/公開
記事:佐藤謙介(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
以前、ある心理学者から面白い話を聞いた。
 
「自らお手伝いする子供には反抗期がない」
 
皆さんの中にも中学生や高校生の時に親に反抗した時期があったのではないだろうか。もちろん人によってその出方は様々だろうし、その反抗の度合いも人それぞれ違っているだろう。
人間には大きく分けると二回の反抗期があると言われている。一回目は3~5歳くらいに訪れるいわゆる「いやいや期」。そして二回目が思春期の時期に訪れる「第二次反抗期」と言われるものである。多くの場合は「反抗期」というと、この二回目を指して言うことが多いのではないだろうか。
 
しかし、お手伝いをしている子供には反抗期がないというのはなぜだろうか?
 
実はこれには理由がある。
一般的に反抗期は子供が大人になる際の肉体やホルモンバランスの変化、付き合う友達の変化など複数の要素が絡むことで発生していると考えられている。しかし、もっとも大事なことは「自分が社会の中で認められている」という存在感を感じられるかどうかなのだ。ではどうしたらそういった存在感を自分が感じられるかというと、それが「お手伝い」なのだとその心理学者は言っていた。
 
お手伝いとは基本的に子供が親(または親族)に対して行う行為である。もしくは親が何かしらの家業をしていれば、直接的にお客様に対して貢献することもあるだろう。いずれにしても自分以外の人に自分が役立っている状態を指している。すると子供は自分が何かしたことで、相手が喜んだり、助かったという反応を得ることが出来る。そうすることで、自分が社会の中で役立つ人間であるということを感じることが出来るそうなのだ。
 
自分が人の役に立つことが出来る人間であると感じることを「自己効力感」という。
「自己効力感」は「自己肯定感」とも深い関係があり、自分を肯定的に感じるために必要な要素になる。
 
ところが「お手伝い」をしていない子供は、自分が社会に対して役立つ人間だと感じる機会がないため、思春期に入ったころに「自分は何がしたいんだ」「自分は誰からも必要とされていないのではないか」と、自分自身の存在性に対して疑問を持つようになる。その結果、親や学校、社会に対して反抗的な態度を示すようになり、一般的に言う「反抗期」の症状を出すようになるというのが、お手伝いと反抗期の関係らしいのだ。
 
私はこの話を聞いたときにとても面白いと感じた。
ただしこの話しには追加情報があり「親がお手伝いを強要してはいけない」という条件が加わるらしい。子供が「自主的に」という点がポイントなのだ。無理やり強制した場合は、本人がそれを望んでいないため、いずれやりたくないと反抗するということだろう。
 
また「お手伝い」を止められている子供も問題が発生する。
親は子供が可愛いため、なんでも代わりにやってあげてしまうことがある。もしくは危ないからという理由でやらせない場合もあるだろう。
これは子供を持った親ならわかると思うが、子供は親がやっていることを何でも「僕も(わたしも)やりたい!!」と言ってせがんでくる。しかし、包丁などの刃物を持つことや、飲み物などをこぼす可能性が高いため、親は「危ないからダメ」とか「こぼすからやめなさい」と言って、子供がやろうとすることを、子供のためを思ってやらせないことがある。実はこれが結果的には子供が「お手伝い」することを親が止めていることになるのだ。
自分が人に貢献することを止められ、そのうえで一方的に施しを受ける状態が長く続くと、子供の「自己効力感」はどんどん下がっていく。そしてその状態に耐え切れなくなった子供は、自分をこんな状態にした親や社会に対して「反抗」するというわけだ。これが反抗期のメカニズムなのである。
 
私はこの話しを聞いたときに、マーケティングで使われる「返報性の法則」を思い出した。
人間には「返報性の法則」という心理現象があり、人から何かしてもらうと、必ずお返しをしたくなるという心理が働く。
 
誰かからプレゼントをもらうと、お返しをしなければいけないと思う気持ちのことだ。
だから男性は好きな女性から見返りをもらうこと(優しく微笑んでくれるとか、付き合ってくれるとか、デートしてくれるなど)を期待してプレゼントを贈るのだろう。女性ももらってしまうと何かお返ししなければいけないと感じるから、多少好みの男性であればデートくらいしても良いかなと思うし、もし全く好みではない男性からのプレゼントだった場合は「これをもらってしまったら(何かお返しをしないといけないから)マズい」と感じるから、そういった男性からのプレゼントを全力で拒んだりするのかもしれない。
 
この「返報性の法則」が崩れてしまうと、人は大きく二つの態度を示すようになる。
一つはもらって当然という態度。もう一つが「もうこれ以上はいらない」という強い拒絶だ。
「もらって当然」というのは、例えばドラマなどで出てくるような美しく綺麗な女性が、たくさんの男性からプレゼントをもらっても、それに感謝することなく「私は貢がれて当然」という態度がそれにあたる。または昔であれば大名や貴族などが働かずに民からの年貢などを一方的に受けとることもそれにあたるだろう。
 
そして、まっとうな人であれば二つ目の「もうこれ以上はいらない」という態度をとるはずだ。
そう、つまり人は他人から一方的な施しを受けると、「これ以上もらったら、自分はもらった以上のものを返せなくなる」と感じるため、「反抗」をするのではないかと思った。
 
私はこの「お手伝いと反抗期」の話しを聞いて一冊の本を思い出した。
 
「毒になる親」
 
これはスーザン・フォワードというアメリカの心理セラピストが著した本で、1999年に日本で出版され、その後の「毒親ブーム」を作った本である。
この本の中には、親が子供に対して暴力や性的虐待を加えたときに、子供の成長や大人になったときに大きなマイナスの影響を与えてしまうことを、数多くの人をカウンセリングした結果をもとにまとめた本である。
 
私は数年前にこの本を読んだときに衝撃を受けたことを覚えている。
なぜなら、私が本業として行っている障害者支援の現場で、同じように「毒親」に影響を受けて悩んでいる人がたくさんいることを実体験として見ていたからだ。
 
私はこれまでに精神障害をもち、苦しんでいる人、悩んでいる人と一緒に仕事を行ってきた。また現在ではそういった障害を持った人たちの就労支援の仕事をしている。彼ら彼女たちは現在鬱や不安障害など様々な症状を発症しているのだが、実は自分の両親との関係に悩んでいる人が非常に多いのだ。
もちろん誤解が無いように言うと、全員が親との関係に課題を抱えているわけではない。しかし、多くの精神障害者が親との関係に課題を抱えていることは疑いようのない事実である。
 
私は多くの障害者と仕事をしてきたが、安定して仕事をこなすことができるようになった人と、働き始めたあとも体調が安定せず、様々な課題を抱えてしまう人との違いの一つに親との関係性があると考えている。
 
例えば多いパターンとしては、子供のころから親に「あれをしなさい」「これをしなさい」「これはしてはダメ」と厳しく躾けられ、親の意に背くことを許されなかったり、家父長制(家長が絶対的な権力を持っている家庭内制度)の家庭でお父さんの意見が絶対で家族全員がお父さんに気を使いながら暮らしていたなどがある。中には体罰や性的虐待を受けていた人もいた。そういった方々は大人になってからも精神的に不安定さがあり、そこに仕事や人間関係で強いストレスを感じると、精神的に耐えられなくなり、精神を病んでしまうのである。
 
そういった親からの強いストレスがある人は、体調や気分が安定せず、自己肯定感を著しく下げている方たちが多かった。逆に親との関係性が良好な人は、たとえ一時的に仕事などで強いストレスを感じ、精神を病んだとしても、家族からの支えもあり、順調に復職をすることが出来る場合が多い。その人たちにとって自分が精神的に弱っているときに支えてくれる家族がいることは、これ以上ない安心感で、たとえ自分がまた心が弱ってしまったとしても、自分一人ではないということを強く感じ、頑張ることが出来るのである。
 
このように親との関係がその人に非常に大きな影響を及ぼしていることを、著者は様々な実例を挙げて解説しているのである。
 
この本の中では「毒になる親」には7つのパターンがあると書かれている。
 
1.神様のような親
2.義務を果たさない親
3.コントロールばかりする親
4.アルコール中毒の親
5.残酷な言葉で傷つける親
6.暴力を振るう親
7.性的な行為をする親
 
詳しい説明は本書を読んでいただきたいが、例えば本論の最初に挙げた「お手伝いと反抗期」に関して言えば、3番の「コントロールばかりする親」が該当する。
親が強制的に子供に対してお手伝いをさせることはもちろんのこと、子供にお手伝いをさせないことも逆の意味でコントロールしていることになる。子供は一人の人間として自分の意志があり、自分がやりたいと思うことに取り組んでいきたいと望んでいる。しかし、親が子供の意志を無視して、自分の思い通りにコントロールしようとすることで、子供は自分の人生に対して主体性を発揮することが出来なくなってしまう。
すると自己効力感が下がり、自己肯定感を下げてしまうのである。
 
ではもし皆さんが「毒親」との関係性に苦しんでいたらどうしたいいのだろうか。
この本には毒親の特性だけでなく、毒親に対する対策も100ページ以上にわたって解説されている。
ここではその内容のエッセンスと、私自身がこれまで数百人の精神障害者と接する中で効果的だと思う内容を加味してお伝えしたいと思う。
 
ステップとしては大きく4つある。
 
①告白
②分析
③癒し
④ゴール設定
 
まず一つ目の「告白」だが、これは自分に対して「正直さ」が鍵となる。
自分が今本当に苦しんでいることを正直に打ち明けるのである。人は多くの場合、自分の本心を隠して生活している。社会的に「他人に弱さを見せることは望ましくない」という考え方があるため、正直な気持ちを隠してしまうのである。しかし、実際には自分の気持ちを隠せば隠すほど、苦しさは増してしまう。
そこで自分の感じている感情を正直に「告白」するのである。これはプロのセラピストやカウンセラーに聞いてももらうのが一番ではあるが、自分一人でも行うことが出来る。
おすすめは紙に書き出すことだ。これは自分一人で行うものなのでどんな汚い言葉を使っても構わない。とにかく自分が本当は感じている素直な気持ちを正直に書き出すことが大事だ。
 
そして次のステップが「分析」である。
実際に自分が正直に打ち明けた感情はどうして起こったのか。それは何が原因なのかを分析するのである。この際に親が影響しているのか、他にも影響している要因があるのかを分析するのである。そして分析した結果、この感情を感じているのが、自分の要因なのか、親やその他の理由が原因なのかを冷静に切り分けるのである。
 
そして自分が今まで感じてきた感情が自分だけのせいではないことに対して「これまでよく頑張ってきたね」と自分自身を「癒して」あげるのが次のステップである。これまでは親からの期待に応えられなかった自分を責めたり、親も自分のためを思ってやったことなのだと、親を擁護する考えがあったかもしれないが、そんな自分を褒めて癒やしてあげるのである。
 
そしてここまで来たら、最終ステップの自分がこれから何をしたいのかをしっかり「目標(ゴール)」を設定するのである。このゴール設定が無いと、また昔の自分に引き戻されてしまう可能性が高い。人はどんな過酷な環境であったとしても既存の環境に戻ろうとする力が働く。その引き戻す力に負けずに前に進むためには自分が叶えたいゴールがどうしても必要なのである。このゴール設定があって初めて今までの自分から新しい自分に進むことが出来るのである。
 
自分がなぜ自信がないのか。自分はなぜいつもイライラしてしまうのか。
もしかしたら自分の自己肯定感を下げている原因に親が影響しているのかもしれない。
もちろんすべての要因を親との関係性に結びつけるのは乱暴だろう。しかし一番近い存在だからこそ、見落としがちな観点であるのもまた事実なのである。
 
この本の翻訳者があとがきでこのように書いている。
 
「社会というのは『家庭』という最小単位が無数に集まって成り立っている」
 
毒親との関係を断ち切るためにも、また自分自身が毒親にならないためにも、「毒になる親」は多くの人に読んでいただきたい一冊である。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
佐藤謙介(天狼院ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)

静岡県生まれ。鎌倉市在住。
大手人材ビジネス会社でマネジメントの仕事に就いた後、独立起業。しかし大失敗し無一文に。その後友人から誘われた障害者支援の仕事をする中で、今の社会にある不平等さに疑問を持ち、自ら「日本の障害者雇用の成功モデルを作る」ために特例子会社に転職。350名以上の障害者の雇用を創出する中でマネジメント手法の開発やテクノロジーを使った仕事の創出を行う。現在は企業に対して障害者雇用のコンサルティングや講演を行いながらコーチとして個人の自己変革のためにコーチングを行っている。

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2022-02-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.156

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