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週刊READING LIFE vol.157

『まあまあな人生』を送りたい《週刊READING LIFE Vol.157 泣いても笑っても》


2022/02/14/公開
記事:山田THX将治(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

今年の誕生日、例年以上のバースデイ・メッセージが私に届いた。
こんな、名も無きオッサンの所に、わざわざバースデイ・メッセージを下さるとは、この世はなんと奇特な方が多いのだろう。
もっとも、私に届いたメッセージの多くは、還暦をとうに過ぎた男を労わろうとの想いから出して下さったのだろう。
 
想定以上のバースデイ・メッセージに返信をしながら、私は一人、もの想いにふけってしまった。正確には、年齢を痛感し焦ってしまっていた。
それは、数多く着たメッセージで、改めて自分の予想余命を考えてしまったからだ。
 
 
私は今年の1月17日で、満63歳に為った。正直には、為ってしまった。為りたくも無いのに。そして、気付かない内にだ。
 
私は、自分の誕生日(1月17日)のことをこう紹介する。
「私の誕生日は、1991年に湾岸戦争が始まった日です」
または、
「1995年に阪神淡路大震災に見舞われた日です」
どちらも、あまり明るい表現が出来ないのだ。
 
これが、戦前生まれの日本人が聞くと、少しばかり様子が違ってくる。
私は子供の頃、自分の誕生日を大人に告げると、よくこう言われた。
「なんだ、『金色夜叉』の生まれか」
と。
明治の文豪・尾崎紅葉が、1897(明治30)年年から5年にわたって読売新聞に連載された代表作が、小説『金色夜叉(こんじきやしゃ)』だ。
物語は、主人公の学生・間貫一(はざまかんいち)が、自身との結婚を前にして許嫁(いいなずけ)のお宮を、富豪の息子に横取りされる。ハイライトは、熱海の海岸を散歩していた貫一とお宮だったが、お宮の心変わりを貫一は許すことが出来ず、思わず履いていて下駄で足蹴にするシーンだ。今でも熱海海岸には、仁王立ちの貫一と、倒れかけたお宮の像がある。
明治の時代ならいざ知らず、令和の現代には似つかわしくないかも知れない。
もしかすると、ジェンダーやハラスメント問題で、撤去されるかも知れない。
私はもう一回、見に行こうかと思ったりしている。
『金色夜叉』のことを知ってからの私は、自分の誕生日のことを洒落で、
「金剛石(こんごうせき・ダイヤモンドの和名)に目が眩んだお宮が、怒り心頭に発した貫一に、熱海の海岸で下駄のまま足蹴にされた日」
と、言う様にしている。
もっとも、現代人には全く通じないが。
それでも感心するのは、戦前生まれの殆どの方が、『金色夜叉』の事件が1月17日に起こったことを知っていることだ。いくら、名作がまだそれ程誕生していなかった時代とはいえ、多くの人がこのシーンの日付をしっているとは驚異的なことだ。
多分、小説発表後、舞台化や映画化されたことも、1月17日=『金色夜叉』を知らしめた一因なのだろう。
 
付け加えると、私と生まれ年まで一緒なのが、伝説のアイドル歌手・山口百恵さんだ。若い方々には、俳優の三浦友和さんの奥方、または、同じく俳優の三浦祐太朗と三浦貴大のお母さんといった方が通りも良いだろう。
 
そしてもう一人、私が自慢したいのは、同じ誕生日にボクシングのレジェンド・チャンピオンが居ることだ。レジェンドの名は、モハメッド・アリ。私が物心付いた頃は、カシアス・クレイと名乗っていた。
昔からボクシングが大好きな私は、彼が同じ誕生日だということを殊の外誇りにしている。
 
 
そんな、誇りにしたい誕生日なのだが、63回目の今年、私は或る事を思い付いてしまったのだ。
それは、同じ1月生まれの父親が満73歳で他界したことだ。
何の気なしに私は、父親の享年迄、後10年しかないことに気付いたのだ。そう、勘定してしまったのだ。
こうなると、もういけない。
自分の人生を勝手に後10年と決めつけてしまい、そして勝手に焦り始めたのだ。
 
そのことを他人(ひと)に話すと、
「何、言ってんだい」
と、一笑に付された。
中には、
「オヤジと同じ年齢で死ぬと決まった訳でも無いだろ」
と、同情気味に言ってくれる友人もいた。
しかし、この説には何とも信憑性が無い。何故なら、父親は背格好が殆ど今の私と同じで、昭和一桁生まれにしては極めて大柄だったからだ。しかも、声が大きく、食事だって今の私の2倍は食することが出来ていた筈だ。とても健康体だった筈なのに、癌と診断された時の余命は、僅か半年だった。
一方私はというと、生来の医者嫌いで、健康診断などただの一度も受けたことが無い。しかも、生活は不規則で睡眠時間は極めて短い。常識的に考えれば、父親より早死にしても不思議は無いのだ。
私の焦りは増すばかりだ。
 
友人の中には、
「後10年なら、現役のまま亡くなることが可能だから、悪くは無いじゃん」
と、言って来る者迄出て来る始末だ。
冗談じゃない。
誰が好き好んで、死ぬ前日迄働きたいものか。
 
新聞報道によると、日本人男性の平均余命は81歳余りとのことだ。但しこれは、0歳児の平均余命のことだ。私の様に既に60年以上も人間をやって来たものは、81歳よりも平均的には長生き出来そうなのだ。何故なら、0歳児の平均余命より長く生きた者でも、その先にまた新たに余命が設定されているからだ。
要するに、平均余命が幾つに為ろうと、特定の人間が後どれ位生きていられるかの指標にはならないということだ。
 
むしろ気にしなければならないのは、健康寿命の方だ。重い病気をせずに、介護や介助に頼らなくても生活出来る年齢のことだ。
日本人男性の平均健康寿命は、73歳足らずだ。丁度、私が今年の誕生日から焦っている年齢だ。但しこれも個人差が有り、90歳を越えても元気で健康な人は幾らでも居るものだ。
 
“後何年生きられそうか”等、いつ考えてもよさそうだ。
何故なら、いつ出た答えでも、そう大きな差が無いと思えるからだ。
 
 
このところ、世の中では“人生100年時代”という言葉が独り歩きしている。
若い方の中には、私へのバースデイ・メッセージで、
「未だ未だ、人生の残りも多いですね」
と、言い出す者がいた。
この発言にも、大きな錯誤がある。同じく“人生100年”でも、30歳の方ならば、残りは7割の70年も有る。しかし、63歳の私には、残りは35年余り。30歳の方の半分しかないのだ。
当然の結論として、残りの人生を考えた時の私の焦りは、若い方より加速しているのだ。残りの人生が、例え10年でも、40年足らずだとしても。
 
私の焦りは、残りの人生を考えた時に発するものだが、もう一つ、考えられる根拠が有る。
それは私が、際限無い欲張りということだ。
例えば、残りの人生でやりたい事を列挙しようものなら、際限が無く出て来るのだ。それも、“アメフトのスーパーボウルを生観戦したい”“F1モナコ・グランプリを生観戦したい”とか、“一度でいいから宇宙へ出てみたい”といった、時間が掛かることもさることながら、巨額な出費を伴うものなのだ。
これでは例え、人生の残りの時間が有ったとしても、もっと強靭な財布が無けりゃ出来ることも出来ないのだ。
 
 
焦って、嘆いてばかりではしょうがない。
世の中には、『泣いても笑っても』という接頭句がある。
辞書の意味では、『どのようにしてみても。物事が最後の段階に来ていることの例え』とある。思いの外、余り良い意味の言葉ではない。むしろ、物事の最後に決められない覚悟を言い表す時に使う言葉だ。
今年の誕生日、思わずこの先の人生を考えてしまった私にピッタリの言葉なのかもしれない。
 
そうなると、私もそろそろ、人生の最終盤に際し腹を決めよということなのか。
 
自分の人生を振り返った時、正直、悔いしか残っていない。それは、先程述べた際限無い私の欲求から生まれたものだ。
俯瞰で見れば、平均より少しマシに自由気儘な人生だったと思える。
そうなると、私の人生の残りが、後10年であろうと40年であろうと、これまで通り自由気儘に生き抜くことが出来れば、そんなに悪くない人生だったと言えるのかも知れない。
 
そう、好きに映画を観て、本を読んで、スポーツを観戦して感動し、年に数着季節の服を買い替えることが出来れば、そんなに不足は無い筈だ。
 
 
ここで私は、腹を決めた。
『泣いても笑っても』、好まずとも好まざるとも、必ず私の人生は尽きる。
ならば、これまで通り、勝手気儘に生きて行こうと。生き切ってみようと。
 
そう出来れば多分、『まあまあの人生だったかな』と満足しながら最後の呼吸をするだろう。
 
さあ、明日も目覚めたら、早目に仕事を切り上げて、映画を観に行こう。
そして帰宅したら、落ちる迄書き物をしよう。
 
 
『泣いても笑っても』、私の人生はこんなものだ。
これが私の、『まあまあな人生』なのだから。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部湘南編集部所属 READING LIFE公認ライター)

1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数15,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックの想い出を伝えて好評を頂いた『2020に伝えたい1964』を連載
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する
天狼院メディアグランプリ38th~41st Season 四連覇達成

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2022-02-09 | Posted in 週刊READING LIFE vol.157

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