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週刊READING LIFE vol.160

2022年4月「パワハラ防止法」適用範囲拡大 ~「ハラスメントハラスメント」に振り回されないために考えたいこと~《週刊READING LIFE Vol.160 まさか、こんな目にあうとは》


2022/03/07/公開
記事:Libra(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)
 
 
職場の部下への指導に対して、「それはパワハラだ」という声が多数上がっていると、部署を統括する上司から厳しい指摘を受けた。
 
「パワハラなんて、そんなこと一切していません!!」
「でも周りから君の指導のやり方は行き過ぎている、あれはパワハラだと複数声が上がっているのだから、自分では問題ないと思っていてもそれは通らないだろう。指導の仕方をもっと考えないとダメだ」
 
実際に私がどう接しているのか、上司は自分の目で見ることもせずにそう言った。
 
「そんなの、冤罪じゃないか。酷い決め付けだ……」
もう、とにかくショックだった。
 
その部下は過去にメンタル不調を経験しており、配慮が必要な人だ。
頑張ってはいるものの、仕事にミスが多くて、何度教えても同じ間違いを繰り返してしまうため、皆が一様に「あの人はダメだ、使い物にならない」という認識を持っている。
 
そんな状態なので、なかなか仕事も覚えられず、何度も何度も同じことを繰り返し指導することになるのだが、手間がかかるし間違いも多いからと、皆教えることを拒むのだ。
 
もともと他の業務を担当していたのだが、物覚えの悪さから同じ業務を担当する他の職員の怒りと不満が膨らんでしまい、いじめに発展した。
その結果、担当を外され、私が担当している業務に配置替えとなったのだ。
 
しかしながら、誰もが指導することを拒み、仕方なく私がその部下の仕事をマンツーマンで教えることになったのだ。
 
「私が教えましょうか?」
 
上司にそう言ったのは私からだった。
言った時の周りの反応は素早かった。
「そうですか、それは助かる。ぜひお願いします!!」と、具体的な指導方針を決めることなく完全に丸投げで、配置換えが済み席替えしたその瞬間から皆が一斉に知らん顔をした。
 
「やれやれ、どうなることやら……」
周りの反応に呆れながら、マンツーマンでの指導が始まった。
 
部下は、間違いは多いものの、基礎的なことは既に覚えていたので、実際に実務を経験しながらわからないところ、自信がないところを洗い出して、都度確認しながら少しずつ覚えていきましょう、そんな感じで進めることにした。
 
指導は予想以上に大変で、やはり何度も基礎的なことを教え直すことが多発した。
とは言え、毎度毎度一から全部丁寧にマニュアルを広げて解説する時間などないので、自分でマニュアルを確認したうえでわからないところについて質問をしてもらうこととしたのだが、残念なことに自分でマニュアルを調べることをほとんどせずに、うろ覚えの知識で仕事を仕上げようとするものだから、一向に同じミスが無くならない。
 
「ここの数字が間違っているよ。正しくはこうだよ」
「ここが空欄になっているよ、ちゃんと確認して埋めてから提出してね」
 
間違っていることを見つける度に一旦立ち止まって、ひとつひとつ丁寧に間違った理由を確認して正しいやり方がマニュアルのどこに記載されているかを一緒に確認し、マニュアルに載っていないけれどこうすればできる、といったコツについては、私の経験を元にして教えるといったことまで行い、じっくりと向き合いながら教えていったのだった。
 
部下も少しずつ仕事のコツを覚えてくれ、間違いも減ってきたし、仕事量も順調に増えていき、我慢強く指導した結果が見え始めてきた。
 
部下も仕事を覚えて、少しずつ自信をつけてきたのが見ていてもわかるようになってきた。
 
ところが、年末年始のまとまった休みを経て年始の仕事で急激にミスが増え始めたのだ。
覚えたはずのことを再び次々と間違うようになったのだ。
 
「どうしました? これはちゃんと覚えてできるようになったことでしたよね?」
「しばらく空いてしまい、すっかり忘れてしまいました」
 
おいおい、休みと言ってもたった数日のことじゃないか。それで全部忘れるなんてあり得ないだろう。
 
月曜になると、週末にはできていたはずのことに小さなミスが連発することが度々起こっていた。
 
それでも、真面目に頑張っていたから、ある程度は仕方がないと割り切って向き合うことにしていたので、何度同じことがあっても苛立つことなく落ち着いて向き合うよう意識して対応していたのだ。
 
間違いがあった。これは既に教えたことでこれまでできていたことだ。
しかしながらまた間違えてしまった。
これは覚えていることなのか、忘れてしまったのか? それによっても対処の仕方が違ってくるから都度確認する。
残念ながら正しいやり方を覚えていないことがわかる。その都度マニュアルを確認しながら時間をかけて教え直す。
仕事中も、「これは昨日再確認したことだから覚えているよね?」と間違いそうなところは先回りして声をかけ、フォローを入れながら部下が不安にならないよう、最大限配慮しながら指導を繰り返してきた。
 
間違いは間違いで、都度立ち止まって知識を整理しながらやり方を復習し、そのまま放置することなく何度でも手を抜かず再確認して気付きを得るのを待ち続けた。
 
10回間違っても、11回目に気付けばいい、そんな気持ちで向き合い続け、どんなに忙しい時にも自分の仕事を止めてまで部下の指導に時間を費やした。
 
その結果言われたのは……
 
「あれはパワハラでしょう」という耳を疑うような意見だった。
 
一言いえば済むようなことを延々と指摘し続ける必要はあるのか。
大きな声で長々と詰めるのが聞こえてくるだけで仕事の邪魔だ。
部下が返答に困っているのに問い詰めることを止めず、追い込むようなことばかりしている。
 
このような指導は行き過ぎではないのか?
 
職場の大多数からそのような意見が出ていると、上司から強い叱責を受けることとなってしまったのだ。
 
「なんだよ、それ……」
皆が見捨てて、誰もサポートしなかったくせに……
ミスが多いことを陰で罵るようなことばかりして精神的に追い込んだのは誰だよ?
お前らにそんなことを言う資格があるのか?
 
いくらなんでもやりすぎだろう。
 
周りから一斉に上がったという、私への非難の言葉。
 
言い方がキツく聞こえるから、もう少しソフトな言い方で教えてやってくれ、と言われるなら、まだ冷静に受け止められる範囲だったけれど、よりによって「それはパワハラだ」だなんて。
 
その部下自身からも、ちょっとしたことを事細かに指摘されることが幾度となくあって、なぜそこまで言われなければならないのか疑問を感じる、といった不満が出ているとも言われた。
 
この言葉にも耳を疑った。
 
マニュアルを見ればわかるような基礎的なことを何度も間違い、繰り返し指摘を受けることになっているのは部下に原因があるのだ。
 
なにも「何回間違うんだ、いい加減にしろ!!」などと怒鳴るようなことをしたわけでもなく、「同じミスが繰り返し起きるのは理解の浅さと正しい手順を覚えていないことに原因があるだろうから、実際にやってみながら、一緒に手順を再チェックしよう」と時間をかけてミスが起きる原因探しをしただけなのに、それを執拗にチェックしながら重箱の隅をつつくような指摘を繰り返している、と言われるなんて、納得いくわけなんてない。
 
一生懸命に向き合ってきたのに、まさか、こんな目に遭うなんて……
 
統括の上司の言葉に、私の直接の上司は何も言ってはくれなかった。

 

 

 

そもそも、厚生労働省が示すパワハラの概念はこうだ。
 
① 優越的な関係を背景とした言動であって
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるもの
 
であり、この3つの要素を全て満たすものをパワハラと言う、とする明確な定義がある。
具体的には、上司が、業務上明らかに必要性のない、業務の目的を大きく逸脱した言動によって、労働者が身体的又は肉体的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じ、それが同様の状況で同じことをされた場合に、社会一般の労働者が就業する上で同様に感じるものかどうか、を基準とすることが適当とされている。
 
おそらく、周りで騒ぎ立てた職員、統括の上司もここまでの知識は持ち合わせていないだろう。
その上で言われたのはこうだ。
 
「周りがパワハラと言ったら、それはパワハラだ」

 

 

 

本当にそれでいいのか?
本当にそれが正しいのか?
明確な定義があるにも拘らず、その定義すら理解していない者が言うことを、そのまま鵜呑みにして判断基準とすることが理に適っているのか?
 
少なくとも私は、この定義を理解しているし、部下のメンタル面も考慮して対応をしていたつもりだ。
皆が知らん顔をした中で、同じことをせず向き合うことを自分から申し出た者として、誰よりも部下を守りながら育てようという気持ちを持って接してきたのだ。
 
そんな日常的な関わり方を一切考慮せず、一方的に悪く言われ、弁解すら聞き入れてもらえなかった。
 
まるで、触ってもいないのに痴漢だと言われ、一方的に冤罪となった罪なき被害者のような状態だ。

 

 

 

今年は、2019年に改正された「労働施策総合推進法」、いわゆる「パワハラ防止法」の強化が法的に義務付けられ、適用範囲が中小企業まで拡がり、4月1日から施行されるようになる。
 
全ての会社に対してハラスメントに対する対策強化が求められるようになるのだ。
 
懸念されるのが、今回私が言われているような、ルールの範囲を超えた「ハラスメントの声」なのだ。
 
なんでもパワハラだ! と言えばそうなってしまうような危うさがあるのだ。
 
「ハラスメントハラスメント」、略して「ハラハラ」などと言う新たな言葉が生まれてしまうような危険性があることを強く感じるのだ。
 
パワハラだ!! と言ったもの勝ち、と言う状況が既に起こっていて、4月以降、冤罪が多数生まれる状況に拍車がかかるのが危惧されるのだ。
 
こうなると、どういったことが起きるかと言うと、上司が何も言えなくなる、ということが起こる。
適正な範囲の叱責をしてもパワハラだと声が上がり、それをいちいち検証して対応を行わなければならないようになる。
 
それはパワハラではないと言えば、優越的な地位を利用して高圧的に押さえ付けられたと反論されてしまうようになるのだ。
 
実際、今でさえ既に「怒れない上司」が増えているのは、それがパワハラかどうかわからないままにパワハラだ!! と言われてしまい、過度な叱責を受けてしまうということが起きていて、どう対処して良いか判断できなくなっているからなのだ。

 

 

 

正に、私が直面している状態そのものである。
 
これが、数か月後には社会問題化するのではないか、そんなふうに感じている。

 

 

 

これを防止するために必要なことは、経営者、管理職、従業員、アルバイト、パート職員まで全員が正しい知識を持つことだ。
 
今の、怒られたらそれはパワハラ、のような歪んだ認識が常態化することを避けるためには正しい知識を皆が持つことが必須なのだ。
 
加えて、相手を思いやる気持ちを持つこと、がもっともっと大事になると思うのだ。
 
パワハラの根底には必ず「怒り」がある。
この怒りが生まれる最大の原因は、相手を尊重する気持ちの欠如にあると言っても過言ではないだろう。
 
皆が気持ちよく働ける職場に必要なのは、お互いがお互いを尊重し合う気持ちだ。
これが欠けてしまうと、怒りが生まれ、パワハラが横行するようになるのだ。
 
せっかく部下のことを思って指導に当たっているのに、パワハラだと言われてしまうなんて、絶対にあってはならないことなのだ。
 
目の前に迫る4月までに、全職員が正しい知識を理解し、お互いを尊重し合う気持ちを持つことの大切さに気付くこと。
 
これが全ての企業にとって急務なのだ。
 
あなたの会社は大丈夫だろうか?
 
 
 
 

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2022-03-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.160

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