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週刊READING LIFE vol.172

宝くじが当たったら「仕事を辞める」一択だった私が昇進することになってしまった。さてどうしよう?《週刊READING LIFE Vol.172 仕事と生活》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース、ライターズ倶楽部にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/06/06/公開
記事:川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
年収は上げたかったけれど、それが「昇進したい」という気持ちだったかというと、イコールではなかった。
 
現在勤めている会社に入社して、5年目になった。前職の取引先であった現在の会社に退職の挨拶をしたら数時間後に電話がかかってきて「うち来る?」と言われ、割とすんなり入社できてしまった。特にやりたいことがなかったので、先のことはゆっくり考えようとのんびり構えていた矢先にトントン拍子で話が進んでしまったので、自分のことながら想定外ではあった。
 
入社当時26歳だった私は、今年30歳になった。
 
小さい頃から、あまり外に出るのが好きじゃなかった。アウトドアかインドアかの二択なら、間違いなくインドアだ。幼少期も、外で遊ぶことは少なかったように思う。というか、好きではなかった。アクティブなことをするのもあまり好きではなく、できるだけ動かずにじっとしていたかった。それは大人になってからも変わらなかった。仕事をするのも生活に必要なお金を稼ぐためであり、そのためのお金が手元にあるなら働きたくなかった。「宝くじが当たったら何に使う?」という誰もが一度は考えたことのある質問に関しての答えは、「何かを買う」のようなものではなく「仕事辞める」だった。
 
宝くじなんて当たるわけもなく(というか買ってもないから当たるも外れるもないのだが)、もうかれこれ7年ほど、生きていくためのお金を稼ぐために働き続けている。
 
20代後半から30歳にかけて、女性は男性以上にライフスタイルの変化が大きくあると思う。転職、結婚、あたりは男性にも変化があると思うが、女性には妊娠という自身の身体に変化が起きる可能性もそこに追加される。そしてそれに伴う産休、育休、もしくは退職という選択肢もプラスされる。
男女平等と言いながらも、男性に比べて女性の方が家事に費やす時間が多いかあ亭が多数だと思うし、男性の転勤によって退職、転職をする女性も多いだろう。そこに未婚女性には「良い人いないの?」とか「まだ結婚しないの?」という言葉や圧を投げかけられることもある。
 
私は独身で、結婚予定もまだない。
ただ、周りの友人や妹にそういったライフスタイルの変化がある中、「自分はこのままでいいのだろうか」という漠然とした不安がここ数年、頭から離れなかった。
 
そんな漠然としたモヤモヤを抱えつつ、そのモヤモヤと向き合いつつ、少しずつ、うまく消化しつつ日々を過ごし、働いていた。
 
3月下旬、東京にいる本部長から電話がかかってきた。勤めている会社は大企業ではないので、それに比べると会社の上層部との距離は近いが、わざわざ東京にいる本部長から電話がかかってくることは多くはない。
 
何の電話や……私なんかやらかしたっけな……。全然身に覚えがない……。
 
そう思いながら、恐る恐る携帯の着信に応答する。
お疲れーという本部長に対して、「すみません、思い当たる節はまったくないんですけど、私なにかやらかしましたかね……?」とこれまた恐る恐る聞いてみた。
 
しばらく冗談やらなんやらでしばらく遊ばれたあと、「ここからが本題なんやけどさ」と、やっと電話をかけてきた目的を話してくれた。
 
「お前さ、マネージャーに昇進することになった!」
 
……え?
 
電話で告げられる内容としては結構重要すぎないか……? と思いながら、頭も真っ白になりかけながら、本部長の話を聞いた。しかも、現在いる営業部に変わりはないが、隣の課のマネージャーに、ということだった。
同じ営業部だが、今いる課と隣の課は結構業務内容が違ってくる。私からすると、そちらの方が難易度が高いように思う。しかも、いきなりマネージャー。
 
現在勤めている会社は、良くも悪くも年功序列ではない。長く勤めていても実績がなかったり、会社への貢献度があまりないと判断されたりすると、給与の上り幅も少ないし、ボーナスももちろんそれなりだ。もちろん、役職に就くこともない。仮に役職に就いたとしてもその後が思わしくない場合は外されることも大いにある。
逆に言うと、入社何年目であろうと年齢がいくつであろうと、実績があったり、会社への貢献度が高いとみなされた場合はそれに見合った給与がもらえるし、20代からでも役職に就くことができる。
 
電話で軽く伝えられただけだし、内示にしては緩く感じたし、「やっぱなし!」ということもあり得そうだなと思ったので、そのまましばらく何事もなかったかのように放置していた。しかし、なんとなく忘れかけていた4月、正式に内示を言い渡されてしまった。
 
今までと違う業務内容、しかも、人の上に立ったことのない万年平社員がマネージャー……。
 
クラスの学級委員や、部活動のキャプテンなんて、もちろんやったことがない。何人かをまとめたり、指示を出したり、引っ張ったり、そういうことはやったことがなかったし、やりたいと思ったこともなかった。そんな責任ある役割が自分に担えると思ったこともなかった。
 
私の異動と昇進が言い渡された時、周りはもちろん驚いていたが、私は内示を言い渡された瞬間から不安しかなかった。
そんな不安は隠しながら働いていたつもりだったが、周囲にはバレてしまっていたようだった。先輩たちが代わる代わる「大丈夫?」と声をかけてきてくれ、「ご飯行こかー」と誘い出してくれた。
 
最初はいつものように雑談から始まり、お酒が進むにつれて、私の本音が顔を出し始める。
頑張りたいとはもちろん思っているし、会社がそういう責任ある位置に私を、と考えてくれてことも嬉しい。だから期待には応えたい。だけど、やってみないとわからないけど、自分はその器なのか? とか、違う課から異動してきていきなり年下マネージャー(異動先で部下になるのはもれなく年上、一番年齢差がある人で9歳差)で嫌な気はされないだろうか? とか、そもそも私は感情を表に出しすぎる節があるので上手く立ち回ることができないんじゃないだろうか? とか。優しい先輩たちにここぞとばかり甘え、自分の胸の奥底にあったネガティブな不安要素をブワっと吐き出した。優しい先輩たちは「うん、うん」と私の話を止めずに聞いてくれた。
 
私が吐き出し終わったあと、先輩が言ってくれた。
「でも僕は川端さんがマネージャーっていう役職になってくれて嬉しいよ。みんな、川端さんのことは信頼してるから。しんどかったら、今日みたいに話聞くし、仮に川端さんの悪口言う人がいたら僕が全力でそいつのこと怒るから、だから心配せずに今まで通りに働いたらいいよ。心配しなくても、十分責任感持って仕事してくれてるって、この5年一緒に働いてきたからみんなわかってるよ」
 
あまりにも優しいことを言ってくれるので「惚れてまうやろーーー!!!!!」と芸人・チャンカワイさんの少し懐かしい決め台詞を、少しふざけて心の中で叫んでいないと、泣き出しそうだった。それくらい、不安でいっぱいだった私の心に良い意味でグサっと刺さったし、刺さったあとは心が軽くなった。
 
私のことを気にかけてくれる人がいる。いつもと様子が違ったら「ご飯行こ」って誘い出してくれる人がいる。「大丈夫だよ」と安心させてくれる人がいる。私のことを信頼してくれる人がいる。しんどいときつらいときに頼れる人がいる。
 
生活に必要なお金を稼ぐために働いているのに変わりはない。変わりはないのだけれど、その目的だけで働き続けていたはずが、それ以上に大切なものを得た気がする。
 
家族でもない、友達でもない、恋人でもない、会社の同僚。
プライベートで会うくらいまで仲良くなる人の方が少ないし、今の会社を退職したら、会わない人がほとんどだろう。現に、前職の同僚とはもう何年も会っていないし、連絡も取っていない。退社して以来、会ってない人の方がもちろん多い。
でも、今の会社で働いている限り、家族や友人より長い時間を過ごす人たちだ改めて考えると不思議な関係である。そんな不思議な関係の人だけど、今の私にとってはなくてはならない存在だ。
 
生活のためにと思い嫌々ながら働いていると思っていた。そう思いながら働いていたはずだった。けれど、いつからだったのだろう。いつからか無意識に、働くことが楽しいとどこかで思っていたようだ。同僚たちと働くのが楽しい、お客さんに喜んでもらえるのが嬉しい。同僚たちと一緒に働くのが楽しいから、働きたい。お客さんにもっと喜んでもらいたいから、働きたい。いつしかそういうことを思うようになっていた。
 
異動は7月から。昇進も7月から。だけど今の業務も引き継がないといけないし、次の業務にスムーズに移行できるよう、今から準備期間に入っている。業務内容ももちろん増えたし、参加しないといけない会議も自ずと増えた。寝不足の日も多い。ストレスで暴食しそうになる日も多い。すぐに湧き出てくる弱音をウジウジを吐き出す日もあるし、イライラして会社のトイレに落ち着くまで籠る日もある。残業が増え、趣味に割ける時間も少し浸食され始めている。
 
正直、しんどい。しんどいけれど、なんだか大丈夫な気がする。
仲良し! という友達のような感じではないが、お互いに信頼しあえている絶対的な味方が社内にいる。働く上でこんなに有難くて心強いことはないだろう。私は、まだまだ頑張れる。
 
もしこの先、私と同じような事態に陥ってしまった人がいたら、その時は先輩たちがしてくれたように声をかけてご飯に行こうと思う。私がそうしてもらって嬉しかったし救われたから。ただそれだけの理由だ。
 
仕事は、いつの間にか私の生活になくてはならない一部になっていた。仮に宝くじが当たったとしても、私は働き続けることを選ぶだろう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。大阪府在住。
自己肯定感を上げたいと思っている、自己肯定感低めのアラサー女。大阪府内のメーカーで営業職として働く。2021年10月、天狼院書店のライティング・ゼミに参加。2022年1月からライターズ倶楽部に参加。文章を書く楽しさを知り、懐事情と相談しながらあらゆる講座に申し込む。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2022-06-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol.172

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