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週刊READING LIFE vol.195

気力、体力は入院にも必要! 合併症になってわかったこと《週刊READING LIFE Vol.195 人生で一番長かった日》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/11/28/公開
記事:かずたわこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
まだ幼稚園に上がる前から38度以上の高熱を出すことが多かった。
そのたびに、天井の模様が動き回り、怪しい影が私に覆いかぶさる……
時には、天井が上からものすごいスピードで落ちてくるような感覚があり、熱のせいで1日中うなされていたことを思い出す。
 
そんな幼少期を送ったのだが、中学校に入ったころ、ようやくその現象から解放されたときには、天井を見ても模様が動くことはなかった。
 
成人になり、身体が弱いのは相変わらずだったが、普通に仕事はできる状態だった。
疲れすぎると「入院したいな~」と、ふと思うことがあった。
そうなると「言霊」というのが適しているのかわからないが、必ずと言っていいほど入院していた。
 
40も半ばを過ぎた歳の頃、同じように「入院したいな~」と思うほど、仕事に追われ疲れていた。
そうすると、また入院することになり自分でも「言っちゃいけないことを言葉にしてしまった」と、悔やんだことを思い出す。
 
手術の内容自体は、これまでの入院生活にしてみれば大したことではない。
婦人科系の病気が元々あったのだが、その延長で、子宮筋腫がいくつかあり、右側の卵巣に脳腫ができていてその切除手術だった。
 
また、自分の身体を傷つけてしまうのか……
 
そう、呟いた。
 
仕事の整理をするために、入院は、手術の前日だった。
医者からは、できれば2日前には入院してほしいと言われていたのだが、その時は、前日しか入院できなかった。
疲れた身体で、ようやくゆっくりできると思いながら、病院のベッドに横になる。
病院の天井には、雨漏りなのかシミができている。だがそのシミは、当たり前だが動くことはない。
 
入院のことは、田舎の両親には伝えていなかった。
緊急連絡先は、両親の家の近くに住んでいる姉に頼んだ。
ただ、私に何かあった時にすぐに来られないからと、もう一人の連絡先は、東京にいる学生時代からの親友に頼んだ。
 
手術の朝、検温に看護師さんが来る。
「体調はどうですか?」と言いながら、血圧を測る。
「変わりありません」と私が答えると「これからさきは、お水も飲まないでくださいね」といって、病室を出ていった。
それを聞いたときに「今日、また身体にメスがはいるんだな」と、久しぶりの緊張感が襲ってきた。
 
以前、左側の卵巣が破裂した時は、開腹手術だったため、回復にも時間がかかり、傷も大きかったが、今回は、腹腔鏡手術をすることになった。
腹腔鏡手術は、私たち患者にとっては傷も小さく、身体への負担も軽いため退院も早い。
それを聞いていたので、会社にも1週間ほどで復帰できるようだと報告をしていた。
 
手術室に入ると、麻酔科の先生が注射針を腕に差し、麻酔を流す準備にかかる。
「10数えますからね~。い~ち、に~い、さ~ん」と言ったとき、私の耳には、先生の声が遠くなっていった。
 
そこから先は、全身麻酔のため何も覚えていない。
小さな時から、全身麻酔の時には、いつも麻酔が切れていないときに目が覚めてしまい、もうろうとしている私は、付き添っている父に向って「おかあさん、おかあさん」と、母を呼んでいたことを思い出す。今思えば、父に悲しい思いをさせてしまったのではないかと反省している。
今回はその父もいない。誰も付き添わない手術だった。
麻酔が切れた時、子供の時のような、もうろうとした状態ではなかった。酸素マスクをしている自分に気づき、朝の10時過ぎに手術室に入ったのに、周りはもう消灯になっていて、私のところだけベッドの脇の電気がともされていた。その薄明りの中、天井のシミを見ながら「今、何時ごろ何だろう」と思っていた。
 
いつの間にか眠っていたようで、看護師さんの朝の検温で目が覚めた。
まだ、酸素マスクをしていた。いつもより若い看護師さんが「酸素マスクが取れたら歩いてくださいね。自分でトイレも行ってください」と言って、マスクを外していった。
婦人科の手術は、毎回のことだが手術の翌日には歩くように言われる。お腹の中で癒着がおこらないようにだ。
癒着(ゆちゃく)とは、本来離れているべき組織同士が炎症により、臓器・組織面がくっついてしまうことだ。
 
起き上がろうとするが何かおかしい。
息が苦しい。
いや、息ができない!
 
その時、先程の看護師さんが病室に入ってきた。
「だめですよ。歩きたくないからって動かないのは。起きましょう」
そう言って、私を無理やりに起こし始めた。
 
「く、くるしい……」
「息ができない……」
 
「またそんなこと言って」と看護師さんが私の顔を見た時、彼女の顔が変わったのを覚えている。
私に何が起こっているのかわからない。だが、私の顔をみて、看護師さんは慌てていた。
 
先生の走ってくる足音が聞こえてきた。私は、頭がもうろうとしてきた。
先生は慌てて酸素マスクを私につけた。
「息を吸って、ゆっくりでいいから息を吸って、気分はどう? まだ苦しい?」
何度も何度もそういって、私に話しかけてくる。
 
少したって、ようやくゆっくり息ができるようになった。
だが、まだ胸が苦しい。
そこからあとは、私の病室にたくさんの機械が入ってきて先生や看護師さんが慌ただしく動いていたのは何となくだが気が遠くなりながらも感じていた。
時々、名前を呼ばれ肩を叩かれたような気がする。
時々、目の前が明るくなり気持ちよくなってからだが宙に浮いた感じがした。
どのくらいたったのだろうか。気が付いたときには、あたりはまた薄暗くなっていた。
何回も医者や看護師が私の様子を見に来ていた。
私は目が覚めるたびに、天井のシミをみて、それが動き始めないか、天井がすごいスピードで落ちてこないか不安になっていた。子供の頃に高熱を出した時を思い出していた。
 
朝の検温の時間、部屋に電気がついた。手術をしてから3日目の朝だ。
看護師さんが私の脇に体温計を挟んでいく。
私が目を開けると、ほっとした顔をしたように見えた。
「気分はどうですか?」優しく声をかけてくれた。
「なんか変な感覚ですが、大丈夫と思います」私は答えた。
「あとで、先生からお話がありますから、それまではゆっくりしていてくださいね」
そういって、看護師さんは部屋を出ていった。
 
昼前に、先生が部屋に来た。
「実は、手術の時間が予定より長くなってしまったんです。そのために合併症を起こしたようです。昨夜、危なかったんですがよかったです」
そう淡々と言われ、最初はよくわからなかった。
どうやら、私は昨夜、死にかけたようなのだ。
時々、目の前が明るくなり気持ちよくなって、からだが宙に浮いた感じがしたのは、どうやら死をさまよっていたようだ。幸か不幸か、花園までは見ていない。
 
看護師さんが来てこういっていた。
昨日、状態があまりよくなかったので夜にお姉さんへご連絡したのですが「九州からこんな夜には行けないのでよろしくお願いします」と言われたんですよ。
あなたが寝言のように「お願いだから家族には連絡しないで」「友達にも迷惑かけるから連絡しないで」とずっと言っていたのに申し訳ありません。
そう言って頭を下げてくれた。
 
残念ながら私は覚えていない。
覚えていないというか、夢の中でそんなことを言っていたくらいにしか感じていなかった。
そして、その看護師さんはこう私に言った。
「歩かないことを疑って申し訳ありません。ごめんなさい」そういって謝ってくれたのです。その時の私は、そんなことはもうどうでもよかった。
ただ「死にかけていたんだ私……」そう思っていただけだった。
 
手術時間が延びた原因を聞いたときには驚いた。
内視鏡カメラのヘッドが子宮の中で落ちたそうなのだ。
小さなカメラなので、落ちてしまうとなかなか見つけるのが大変だという。
腹腔鏡手術は、ベッドは並行ではなく、足のほうを少し高めにするので、頭のほうが低くなる。その体制で長時間カメラのヘッドを探していたのが原因で、心臓に負担がかかり心不全になったようだ。
目覚めてからの検査で、胸のレントゲンを撮ると、水が肺にたまっていたので真っ白になり、心臓も肥大していた。
1週間で退院の予定が、2週間ほど入院となり、それから1ヵ月自宅療養となった。
 
元々はカメラのヘッドが落ちたことが原因だが、手術をする前に、手術承諾書にサインをするのだが、その中に合併症のことがかいてあり、心不全もまたこれに含まれていた。
それにサインをしたということは、もし、合併症になっても病院に責任はないということにサインをするようなものなので、今回もそれに含まれるらしい。
親友のご主人が「女一人だからってなめてんじゃないか。俺が話してもいい」と言ってくれたのだが断った。
 
確かに手術による合併症だが、そのもとはカメラのヘッドが落ちなければこんなことにはならなかったと言えば、病院の過失になりえるのだが、私にはそんなことでもめる時間が無駄に感じたし、あの看護師さんの対応のことを訴えることもできたのだが、最後に彼女が謝ってくれた時の表情が思い出され病院側に物申すのはやめにしたのである。
そして何より、私は生きている。命を再び頂いたのだ。それだけでいいとさえ感じていたのだ。
 
身体に負担がないといわれる腹腔鏡手術。今では主流になっているが調べてみると結構リスクがあるようだ。書籍やネットで調べると同じようなことが書いてある。
 
腹腔鏡手術は開腹手術に比較し傷は小さく、美容面に優れるといった利点をもつ一方で、患部に直接触れられないことや、平面ディスプレイに拡大された画面を見ながら行うので、遠近感が掴み難いなど、特殊な環境下で行う手術であるため技術的に難しく、合併症も開腹手術に比較しておこりやすい傾向にあるとの見方がある(「ウィキペディアより」)
 
開腹手術も腹腔鏡手術もそれなりにメリット、デメリットはあるようだが、病気の種類や手術の場所によっては、腹腔鏡手術がしたくても開腹手術になったり、その逆もあるわけだ。あとは、長時間の手術になったとしても、合併症にならない体力を作っておくことは大切なのかもしれないが「入院したいな~」ではなく「病気になんかならない!」という気力が一番大切なのかもしれない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
かずたわこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

カウンセラー、パソコン講師を経て、現在、会社員の傍らビジネスセミナーの運営を仲間と共に行う。
人生100年時代の中盤で死の淵をさまよい、生き返ったことで人生観を変える。
生きた証を残したいとライティングにチャレンジ中。

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2022-11-23 | Posted in 週刊READING LIFE vol.195

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