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週刊READING LIFE vol.195

僕のコミケの長い一日《週刊READING LIFE Vol.195 人生で一番長かった日》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/11/28/公開
記事:黒﨑良英(天狼院公認ライター)
 
 
 「冬はつとめて」
つまり「冬は早朝が一番趣き深い」と、清少納言の『枕草子』にある。
だが、そんな趣すら感じさせない、日が昇る前の冬の早朝、そこにはすでに長蛇の列が出来ていた。それも何列も。
 
東京は有明、巨大展示場「ビッグサイト」。
冬の寒さも感じさせない熱気の渦中に、私はいた。
そう、年内最後の一大催事、“コミックマーケット”に私はいたのだった。
 
コミックマーケット――通称“「コミケ」。
もはやその名はオタクではない人々にも広まっているであろう、国内最大規模の同人誌即売会である。
2019年12月30日、私ははじめてイベントに参加した。
おそらくこれが最初で最後になるであろう、そんな一抹のわびしさを感じながら。
 
事の発端は数ヶ月前、友人との会話であった。
オタク同志、存分にそれっぽい話を語っていた途中、そういえばコミケに行ったことがない、と私が言ったときだ。
実は友人はこの道をかなり究めたプロ(?)であり、毎年欠かさずコミケ参加をしているのだという。なんと運営としての参加も経験があり、話は自然と、では今度は一緒に行こうという方向になった。
 
そう、私はプロのスケジュールを体験したのである。
そのため、行動は前日の夕方から始まっていた。
私の在住地は隣県とはいえ、会場まではかなりの時間を要する。したがって、前日に東京入りし、ネット喫茶で一泊し、現地に向かうという計画だ。
 
ここにプロのやり方がある。
ご存じの方もおられるだろうが、会場であるビッグサイトの前には、「国際展示場駅」がある。その始発に乗るのかと思ったが、さにあらず。「国際展示場駅」に始発電車が来る頃には、皆、違う方法ですでに並んでいるのである。
いや、電車だって朝の5時半くらいなのだが、それでも、だ。
だからこそ、ネット喫茶を出た後は、タクシーを使って現地入りを果たした。ちなみに、この時は私がいたために2人で乗ったが、いつもは4人くらいで乗り合いをし、乗車賃を折半するらしい。資金は少しでも多く戦利品につぎ込むための大事な知恵である、という。
 
早朝4時に出発し、現地に並んだのが、およそ5時。すでにこの短時間で、私にとっては大冒険であったが、もちろん、始まってからはこんなものではない。
 
夜が明けても太陽は出てこなかった。その日は小雨の混じる曇天であり、寒さもひとしおのはずだった。だが、会場を待つ我々の熱気は、いよいよ最高潮に達しており、ひたすらその時を待った。何でも、最長時には、隣町まで列ができていたというが、本当だろうか。
 
いよいよ会場の時間である。入場券はブレスレット状になっており、捲いた腕を高くあげて入場していく。さながら某海賊漫画の感動シーンである。
 
さて、今回の私のお目当ては、レイヤーさんである。すなわち、コスプレイヤーの方々を写真に収めることだ。そのために愛機『Nikon D/f』を首から提げてきた。
しかし、そこは所詮素人にして初心者である。気持ち的になかなか列に並びづらい。そう、人気の人の前には写真撮影の列ができているのだ。皆重装備である。カメラ一つの私とはエラい違いだ。
 
結局あまり良い成果が見込めなかったが、これでしょげたりしない。
有名なレイヤーさんたちは、自分で写真集を作り、ブースで販売するのである。
気持ちを切り替え、早速お目当てのブースを探すと、そこそこの列が出来ていた。そわそわしながら並び、ご本人からの手渡しで受け取り、ホクホクの気分であった。
ところが、ふと振り返ると、次の人はサインをお願いしていたことに気付いた。
そうだ、この機会は逸してはいけない。そう思い、早くも列の後ろに並び直し、また待った末にサインをいただけた。さらにホクホクな気分である。
 
会場を歩くと、有名無名、様々なレイヤーさんがいた。
驚くことに、中国や台湾からわざわざお越しいただいた方も多かった。やはり、オタクはボーダーレス。世界平和はオタクが作るに違いない、なんてちょっと思ったりもする。
 
目移りする会場を徘徊していると、悲しいかな、コスプレ撮影の場所が閉鎖する時間となった。
急いで場所まで戻ると、当然、ほとんど人がおらず、それでも残ったわずかな方々の写真を撮らせていただいた。
 
最後は少々悔いが残る結果となったが、あの日のことは、今でも心に染みついている。
もちろん、戦利品のホクホクさ……もとい、戦利品に満足したということもある。
だが、あの日、まだ日の昇らない暗闇の中を待った時間、皆の熱気に圧倒された会場を回っている時間、全てが濃密な時間であった。
 
よく、楽しい時間は早く過ぎてしまうというが、そんなことはない。1分1秒が、凝縮され充実したまさに楽しすぎる時間であった。
これはやはり、そこにいるのが全て同志であるという認識もあるであろう。
オタクが売り、オタクが買うのである。オタクがコスプレをし、オタクが写真を撮るのだ。
今でこそ、人口に膾炙してきた「オタクコンテンツ」と「オタク」そのものだが、未だに偏見は根強い。
その中にあって肩身の狭い思いをしている人々が、その日その場所では、生き生きと、生を謳歌しているのだ。
 
こうして濃密で長い一日が、それこそ一人一人違う長い一日が作られるのである。
 
私自身、あまりキビキビと動くことは得意ではない。予定をぎゅうぎゅうに詰めるのも苦手だ。
というか、実は私、何もしなくても時間を過ごせるという、まあ、持っていてもどうしようもない特技を持っている。
本やスマートフォンなどの暇つぶしのようなものがなくても、景色を見たり妄想をしたりすることだけで、小一時間耐えられる。
 
幼少期に、病院でひたすら待つということに慣れたからかもしれない。
当時の病院は、朝一で検査をしても、午後を待ってからではないと結果が出なかったのだ。
私はその間、ただひたすら待った。外をぽけーっと見たり、同じ漫画を何度も読み直したりして、時間が来るのを待っていた。
 
だから、幸か不幸か、「待つ」ということは、大して苦痛ではないのである。
よく、病院で待つことが不快に感じる方がいると思うが、なぜそんなに怒っているのか、不思議でならなかった。
 
話を戻そう。
とにかく、何もしなくても時間を過ごせる私が、特段時間を大事にとか、時間が貴重だからとか、そんなことを思ったことのない私が、そのときは、コミケの中にあっては、1分1秒が実に惜しいと思われたのだ。
 
残念ながら新型コロナウィルスの蔓延のため、一時期は中止となっていたコミケだが、今、再び動きだした。
 
ならば、再び私は動こう。あの場所に行き、濃密な時間を過ごそう。
また、あの長い一日をぜひ過ごしたいものである。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
黒﨑良英(天狼院公認ライター)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨の高校に勤務している。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。持病の腎臓病と向き合い、人生無理したらいかんと悟る今日この頃。好きな言葉は「大丈夫だ、問題ない」。

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2022-11-23 | Posted in 週刊READING LIFE vol.195

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