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週刊READING LIFE vol.196

質問するたびに考えていないと怒られ続けて《週刊READING LIFE Vol.196 「いい質問」の共通点》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/12/05/公開
記事:山田 隆志(天狼院ライターズ倶楽部)
 
 
もっと気軽に質問ができるようになればいいのに、とずっと心の中で思っていた。「わからない」と口に出してしまうことが悪であり、恥ずべくことだと思っていた。
 
質問をすること疑問に思うことはいいことだと頭では理解しているが、やっぱりどこかでブレーキがかかってしまうようだ。
 
質問することを使いこなすことができたのならばもっと器用に生きられたかもしれない。

 

 

 

「そんなこともわかんねーのか!! オレの話をちゃんと理解したのか!!」私の社会人の始まりは、こんな怒号を毎日浴びせられるばかりだった。
 
2003年の最初の配属は印刷工場の裁断係だった。主にチラシやパンフレット、DMはがきにポスターといった商業印刷物を取り扱っており、それらを作成するための最終工程を担っていた。一日につき、全部合わせて10万枚ほどの何かしらの商用印刷物を作成していたのが社会人の始まりだ。
 
もちろん、新人社員研修や使用期間もあり徐々に会社には慣れていくようになったものの、入社1か月もしたら、入社5年目の先輩と二人三脚ですぐに現場に着任した。
 
印刷工場の現場に着任したものの印刷についての知識は皆無であり、それどころか会社にいる人も、会社のルールも全然理解できていない。社内での会話が専門用語ばかりで何を言っているのかが全然わからない状態だった。
 
もちろん、印刷加工現場での仕事の指示もみんな専門用語ばかりで何もわからない。
 
私がそんな状況になっているのもお構いなく、容赦なく先輩たちから指示が飛ぶ。
 
「コート紙(チラシでよく使われる光沢状の紙)を100枚持ってきて!!早く」
 
「コート紙って何ですか?どこにありますか?」と聞こうものなら、「バカヤロー、昨日教えただろう」のが常だ。
 
どんな職業にも言えることだと思うが、とにかく専門用語が多く中にはその会社、その部署ならではのルールや言葉もたくさんある。
 
新入社員なら知らなくて当たり前なはずなのだが、先輩たちのように専門用語が日常語となっていると当たり前のように指示が飛んでくる。
 
最初の2か月は先輩のサポートに徹しながら徐々に仕事を覚えていくのだが、新入社員にとって知らないことだらけでストレスがたまってくる。わからないことに対して先輩は、親切に接していただいたと思うのだが、それでも何かを質問をするたびに、先輩の仕事をとめることになり、明らかに足でまといになっていた。
 
いよいよヤバいと感じたのが配属から2か月が経過し、私が断裁機を実際に扱うことになるときだった。
 
初めて見た断裁機は1000枚もある大きな紙の束を動かして、必要なところにギロチンのように刃を下ろして切り落としていく。先輩たちがいとも簡単に断裁機を取り扱うさまを見ながら、きれいにA4のチラシやDMはがきが出来上がる。普段から見慣れていたチラシやはがきがこうやってできるのかと感動したことを覚えている。
 
その時は感動しながらも半ば他人事のように先輩たちを見ていた。
 
いよいよ、断裁機を私が取り扱うことになった。先輩のしぐさを見ながら必死でメモを取るが全然理解が追い付かない。印刷物を裁断するにはルールに基づいたやり方がちゃんとあるのだが、その理屈が全然理解できなかった。
 
先輩が私に手取り足取り教えてくれていたのは初日だけであり、後は自分でやってみろということで何とも荒々しいデビューとなった。
 
一人で機械につくと、教えてもらった基本的な手順が見事に抜けてしまっている。先輩に教えてもらおうとするなら、「お前、オレの話ちゃんと聞いていたのか!!」とやっぱり怒られてしまう。
 
一度、教わったことをもう一度聞き返したりすると怒られる。教わっていないと思ったことでも簡単に質問しようものなら、「少しは自分で考えろ!!」と怒られてしまう。
 
新入社員のころはいつもわからないことが発生して、先輩に質問するたびに怒られていたような1年だった。
 
何度も聞こうものなら怒られてしまう。そんな毎日が嫌でたまらないので、学生時代には全く習慣としていなかったメモを取りながら必死で覚えていた。通常の仕事が終わってからもメモの内容を反芻しながら、どうにかものにしようともがいていた。
 
「畜生。なんで教えてくれないんだ。そんなに怒鳴りつけることないだろう!!」必死で覚えていたのも先輩への反発があったのは間違いない。
 
先輩が後輩に意地悪をするなんて間違っている。こんな思いをするのはもうたくさんだ。私に後輩ができたなら、知っていることを余すことなく教える。とにかく優しく、とにかく丁寧に教えるぞ。
 
こうやって先輩を反面教師にしながら、印刷工場での業務を2年続けたところで異動辞令がでた。
 
せっかく、学んだことがリセットされるのに寂しさも感じたりはしたのだが、新しい職場での業務を楽しむことにした。

 

 

 

入社3年目になって、印刷工場から社内情報システム室に異動になった。毎日体を動かす仕事から一日中パソコンに向かっている業務となった。これが初めてのデスクワークであり、ビジネスマナーや会社での電話の受け答えを一から学びなおすことになり、新入社員をもう一度やり直すような形だった。
 
社内情報システム室に配属になったもののパソコンはインターネットで遊んでいるだけでかろうじてワードを使うことができ、エクセルもパワーポイントも満足に使いこなせない状態だった。それ以上に自分の所属している会社のことが全くわからない状態だった。
 
社内情報システム室は上司である部長と当時の新入社員に入社3年目の私が加わって3人に構成されていた。主に会社のインターネットや業務に使う各種システムなどの保守が主な業務であり、会社を運営するのに欠かせない業務であるが、私の役割は主に社員が使うパソコンの発注や修繕・保守といったヘルプデスク全般が私のメインの業務だった。
 
パソコンもろくに触ってこなかった私がヘルプデスクを担当することになる。上司がいてくれるとはいえ、そんなポジションになんで素人を担当させるのか……
 
私の電話がひっきりなしに鳴り響き、全然知らない社員から「私のインターネットがつながらない」とか、「変なメッセージが出てきて動かないんだけど」とか言われてしまう。
 
そんなこと私に言われてもわからないよ……
 
こうなってしまうとすぐに上司を頼ってしまうが、上司の回答の意味が理解できない。もう一度聞こうものなら、「少しは考えたらどうなんだ!!」と言われて途方に暮れてしまう。
 
こんなことを毎日繰り返しているたびに、上司からは「お前の質問の意図が全然わからん。何にも考えてないじゃん」と言われて追い返されてしまう。
 
そんな上司の態度を受けながら、「なんで質問に答えてくれないんだ。そうやって意地悪ばっかりするのはおかしい」と新入社員相手に愚痴るありさまだった。
 
後輩から見れば、本来手本になるはずの私が醜態をさらしているのでどうしようもない先輩だと思われているのだろう。その通り仕事で先輩らしいことは何一つできていない。せいぜい、後輩を飲みに連れて行ってあげているぐらいなのだが、私の愚痴に付き合わせてしまっている。
 
そういや怒られるのはいつも私で後輩はあんまり怒られていない。新入社員だから多少多めに見られているものだと思っていたが、それは大きな勘違いだった。彼は学んだことを常に吸収しようとノートにまとめており、仕事を覚えるのが早かった。彼と私とでは役割が異なるとはいえ、わからないなりにも自分なりの考えを示しながら上司に質問をしていた。
 
一方私は、誰かからの問い合わせに対して自分が知らないことをそのまま上司にぶつけている。そんな姿を見て「なんも考えていない、すなわち仕事をしていない」と思われたのだろう。
 
その態度は、印刷工場で先輩から教わっていた時と変わらなかった。それを後輩の姿を見て改めて気が付くことになる。
 
それでも私に部下が付くことになったら、質問にはどんな質問にも必ず答える。優しく丁寧に教えるものだとずっと考えていた。

 

 

 

あれから10年が経ち、ずっとお世話になってきた上司がついに定年退職を迎える。あの時の新入社員は別の部門に異動した後に退職してしまった。必然的に上司の持っていたノウハウを全て私に引き継がれることになった。
 
やっぱり怒られてばかりのスタートだった情報システム室でも、まがいなりにも自分の役割は全うすることができた。上司の「サポート」は何とかこなすことができたと思う。
 
上司がメインでやってきた業務は、これまで私が行ってきたこととは別次元の領域であった。退職する上司は私に引き継ぐために一生鶏鳴であり、対する私もこれまで以上に身を引き締めて何とか覚えようとしたのだが、どうしても理解が追い付かない。
 
質問したいことは山のようにあるのだが、新入社員時代から質問するたびに怒られてきたこともあってか、なかなか思うように質問ができない。なにより、質問をしようにも本質を理解することができずに「何を質問してよいのか」わからない。
 
これから引き継ぐべきことは、これまで経験してきたこととは比べ物にならないぐらい難しいのだが、このまま上司が退職し私が何も習得しないまま情報システム室に残ると、会社のインターネットがダウンしたら、誰も復旧させることができずに会社は終わってしまう。上司と私にとって一世一代の大勝負なのだ。引き継ぐ人間をお前ではなく、もっと優秀な社員か外注に引き継げばよいのではないかという声も当然あったのだが、私にだってプライドがあるそれはどうしても受け入れられなかった。
 
それにしても、私の理解が追い付かず一向に引継ぎが進まない。上司にとっては当たり前の業務でも私にはわからないことだらけだ。それをそのまま質問したら、「やっぱりお前は何にも考えない」とずっと怒られてきた。
 
いよいよ、上司の定年を迎えるまで半年に迫り、上司に別室に呼ばれて説教を受けた。
 
「お前は今の状況をわかっているのか!!しっかり学んでくれないと困るのだよ」と上司はいつまで経っても学ばない私にしびれを切らした。会社のでもこのままあいつに引き継いで大丈夫なのかという声が一層強くなってきた。
 
ここまで説教を受けると私も「だったらちゃんと引き継いでくれればいいでしょ」とたまらず言い返してしまった。上司は無言で私を見つめていた。

 

 

 

上司にはたまらず大声で怒鳴ってしまっていたが悪いのは完全に私だ。本当に何とかしないといけない。
 
ここで、私は無い知恵を絞りながらある方策をとった。
 
これまでの10年間で学んだことや知っていることを全て資料にまとめ始めた。上司に言われたことを全てメモして資料を作ることにした。引き継ぐのは自分なのだが、部下ができることを想定して懇切丁寧に教えるつもりで資料を作り直した。
 
そうすることで、理解していることと理解していないことがクリアになってきた。
 
引き継ぐためにどうしても理解できないことをやっぱり質問したい。しかし、質問をすれば「お前は考えていない」と言って怒られる。
 
どうすればいいのか?
 
上司との引継ぎまであと半年普通に質問するのではなく、教えていただきたいことを上司に説明するように質問をすることにした。
 
私が別の部署やまだ見ぬ部下に教えるつもりで「わからないこと」を上司に説明した。
 
ようやく、上司に怒られることなく丁寧に答えてくれて、引継ぎまでのピースがぴったりとハマった。
 
この瞬間、社内ネットワークについて完全に理解ができ上司の引継ぎが完了した。

 

 

 

私は仕事を覚えることに対して優秀ではなかったのかもしれない。何しろ、質問をするたびに上司にしろ、先輩にしろ「お前は考えていない」と怒られ続けてきた。
 
怒られるたびに、彼らを反面教師として私は絶対に丁寧に教えると心に決めていたのだが、本当にそれができるのかは怪しいものだった。
 
間違いなく、上司も先輩も私に対して丁寧に質問に答えようとしていたはずである。
 
しかし、「わからないから質問して当然」という私の態度が彼らを怒らせて来たのだろう。
 
「何が理解できて何が理解できていないのか」を自分なりに考える必要がある。それができないまま、質問をしてもまた同じことの繰り返しで自分の理解が深まらない。
 
それがわかるまでにとにかく長い時間がかかったし、いつでもしっかり考えた質問ができているのかはすごく怪しいが、質問をした時に相手に怒られたり、イライラさせたときは間違いなく考えていない。
 
質問をするのも大変ではあるが、ずっと考え続けることが必要かもしれない
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田 隆志(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年8月の誕生日にライティングゼミ夏季集中講座で天狼院デビューとなりここから天狼院沼にハマって、ハードワークの技術、時間術ゼミNEO、無限ラーニングZ他多くの講座を受講することになる。
2022年1月よりライターズ倶楽部参戦するもあまりのレベルの高さに騒然とし、ライティングゼミNEOでライティングを鍛えなおす。同年10月よりライターズ倶楽部復帰

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2022-11-30 | Posted in 週刊READING LIFE vol.196

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