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週刊READING LIFE vol.196

あの頃の困った質問を思い出す《週刊READING LIFE Vol.196 「いい質問」の共通点》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2022/12/05/公開
記事:山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
少し物騒な話をしよう。
 
「どうして人をあやめていけないの? ねぇ、どうして?」
 
そう聞かれたことがある。
20歳ぐらいのときに飲み会で出会った男性に言われた言葉だ。
 
は? 初対面で何を言うんだ、この男は。
 
わたしはギョッとして引いていた。
その男性はかなり酔っていた。
 
「いや、だめでしょう。どう考えてもアウトだね。あたりまえのことじゃない?」
 
「だから、なんで?」
 
わたしが質問に対して答えていないので詰めてくる。
 
「なんでって……常識的に考えて、だめでしょう。考えるまでもないよ。倫理観に?」
 
「だから、なんでって言ってるの」
 
そう言われてわたしの思考は止まってしまった。
 
こいつは、やばい奴かもしれない……。
 
そのときは初対面でそんな質問をされたことに引いていたが、「なんで?」と聞かれて、明確な答えが浮かばない自分にもあせっていた。
「なんでそんなことを聞くの?」
と聞き返したかったが、質問に対して質問で答えることになるので、まずは答えようと考えた。
真面目である。
しかし、出したわたしの答えが、なんとも情けないものだった。
 
「だって、法律で決まっているから……」
 
かなりモゴモゴと答えたのはおぼえている。
自分でも、もっと他にないのかと思った。
考えたこともなかったので、強く言えず、「常識的に考えて……」というのと合わせて、倫理と法の観点からアウトと判断したと言っていいだろう。
わたしの答えに納得がいっていなかったのか、それともつまらないと思ったのか、その人はプイッとどこかへ行ってしまった。
まぁ、かなり酒に酔っていたので、気まぐれに出した質問だったかもしれない。
どうしてそんな質問をしたのか、あのとき聞いておけばよかったと今となっては後悔している。
彼の闇を垣間見ることができたのかもしれないし、さらに面倒くさい質問を出されることになったのかもしれない。
 
まぁ、その質問がいい質問だったとは思わないが、その後、自分の中で消えずに残っている印象的な質問となった。
そして、即答できなかった自分に少しへこんだことも確かだ。
 
「人を攻撃するのは悪だ」ということが染みついている環境に身を置いているから、あたりまえのように「人をあやめてはいけない」という答えにたどり着く。
考えるまでもないというわけだ。
自分と同じ秩序を守っている人たちがいる世界においてはそれが常識だということだ。
現在の日本において、刑法第26章第199条にはこうある。
 
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
 
刑法のこの条文が削除されない限り、日本においては許されない行為であることに間違いない。
 
かなり歴史を遡るが、奈良時代の日本には「律令」という仕組みがあり、してはいけないことをやらかした場合の刑罰を定めた、現在の「刑法」にあたる「律」と、政治を行う法律にあたる「令」が定められていたということだ。
この時代は何に罪が与えられているかというと、「儒教」に基づくものが秩序であったため、「儒教」に反するものが悪いこととされていた。
 
奈良時代には「職制律」というものがあり、正当な理由なく出勤しなかった場合、むち打ちの刑だったそうだ。
無断欠勤してそのまま会社を辞める……なんてことは、奈良時代では「むち打ち」の刑が間にはさまるというわけか。
奈良時代の刑罰は結構面白く、「和気清麻呂(わけのきよまろ)」という貴族が、「別部穢麻呂(わけのきたなまろ)」という汚い名前に改名するという刑罰があったそうだ。
 
きたなまろ!
そのまますぎる!
ちなみに、おねえさんまでも汚い名前に改名されている……。
 
「罪の名前をもっと格好悪い名前にしたら、そんなことをやる奴も減るんじゃないか。ダサい名前だったら格好悪くてやらなくなる」
なんて意見をテレビ番組で聞いたことがある。
罪の名前ではないが、「名前」そのものをダサい名前にするという刑罰が奈良時代にあったのは興味深い。
この刑を下したのが、称徳天皇という女帝だそうだ。
この当時、「言霊」というものが信じられており、名前は大切にしなければならないということから、その名前をあえて汚すという、改名の刑が生まれたというわけだ。
「悪」のものさしも、その時代の環境や信仰によってかわるということだ。
 
わたしが飲み会の席でされた質問とまったく同じ質問が、田村由美著の『ミステリと言う勿れ』という漫画に出てきたことがある。
『ミステリと言う勿れ』は、大学生の主人公である「久能整」が、さまざまな事件に巻き込まれながら解決に導いていく漫画だ。
2022年1月には菅田将暉主演でドラマ化されている。
オムニバス形式になっているので読みやすい。
一話一話が完結しているが、どこかで物語が繋がっている……そんな漫画だ。
 
この漫画の中に、主人公がバスジャックに巻き込まれる話がある。
バスジャック犯が、わたしがされた質問とまったく同じ質問を乗客に問う場面があるのだ。
やはり、乗客はわたしと同じように「あたりまえのことだろう」と言う。
この話を読んだときに、わたしの過去の記憶がぶわっと蘇った。
 
漫画の中の犯人は「どうして?」と、これまた同じように詰めていく。
「他人にされて嫌なことは他人にするなって習ったから」という乗客もいる。
似たようなセリフも言ったことがあるかもしれない。
しかし、それだとすべての人には当てはまらない……いうことになる。
 
「残された人が悲しむから」
 
そう答える人もいる。家族が悲しむから。
それでは、悲しむ人がいなければいいのかということになる。
犯人は罪になる理由を教えろと詰めてくる。
 
そこで、罰則があるだけで実は「あやめてはいけない」という法律はないと、犯人が驚くようなことを言う人が出てくる。
秩序を重んじる側にいるから、成り立っているだけのことだと……。
詳しくは漫画を読んで欲しい。
 
わたしがあのとき言った答えも、漫画の中に出てきていた。
質問されたときは自信なさげに答えたが、それはいまもかわりはない。
ただ、あの答え自体は間違いではないと思っている。
そして、いまはもう少し追加したい。
 
わたしたちに至るまで、長い間、世代が繋がってきた歴史がある。
この世代のチェーンは、ときとして、自然と切れてしまう場合があるのは仕方がないことだと思う。
ただ、それを無理やり断ち切ることは、してはいけないことだと思うのだ。
無理やり断ち切ってなければ、その人の相関図はどんどん広がっていったのだ。
その人に子どもができるかもしれない。
すると、そのまた子どもができ、そうやって世代を繋いでいく役目をする。
世代を繋げるチェーンを断ち切る行為はしてはならない。
 
子どもがいなければいいのではないか?
若くなかったらいいのか?
 
いや、そうではない。
知らず知らずに自分の存在が他の人の人生に影響を及ぼすこともあるのだ。
間接的に人と人と繋がっている「縁」という名のチェーンを自ら断ち切ってはいけないとわたしは思う。
ましてや、自分のものではないチェーンを他人が断ち切ってはいけない。
出会うはずだった人が出会えなくなるかもしれない。
そこから枝分かれしていく「縁」の広がりが失われてしまったらもったいない。
 
未来の出会いを断ち切ってはいけない。
 
とんでもない質問ではあるが、考えさせる質問ではある。
自分のなかにあった「あたりまえ」という存在に気がつく。
あの頃に戻って、質問に答えるとしたらどう答えるか。
とりあえず、「バカなこと言ってんな」から始めて、ゆっくりと話したいと思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年12月ライティング・ゼミに参加。2022年4月にREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。
1000冊の漫画を持つ漫画好きな会社員。

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2022-11-30 | Posted in 週刊READING LIFE vol.196

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