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週刊READING LIFE vol.201

流行りのウイルスと過ごした、とある一家の年末年始《週刊READING LIFE Vol.201 年末年始のルーティン》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/1/23/公開
記事:小田恵理香(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)
 
 
日頃働いていると、なかなかまとまった休みを取ることは日に日に少なくなってくる。
年末年始は年に数少ない休める期間。
ただ子供の頃は、年末年始の休みなんてつまらないの一言だった。
どこに行っても人は多いし、テレビは特番ばかりになってしまう。
豪華な食事も食べられるし、お年玉をもらえることと近所にある神社の屋台に行ける楽しみもあった。
大人になり、巣立ってからはその意味合いは変わった。
ゆっくり身体を休められる。
普段できないことを思い切ってすることができる。
何よりもなかなか会うことが出来なくなった人たちと会うことが出来る貴重な機会。
我が家の年末年始は毎年、12月中頃から計画が始まる。
 
「そろそろ決めないとな」
と思っていた頃に3姉妹で組んでいる共通のLINEグループの通知が鳴った。
『姉さん、今年の年末も大阪帰れるよー』
『お、おちびも帰れるの? じゃ、今年は元旦登山辞めとこ』
『私帰るから、山行かずに大阪きてちょ』
妹たちが盛り上がっていた。
私には妹が2人いる。
2歳離れた次妹と、6歳離れた末妹。
女3人姉妹だ。
だが二人とも今は近距離にはいない。
仕事の関係で次妹は石川県に、末妹は東京に住んでいる。
末妹は一番姉妹の中で小さいからと昔から、“おちび”と呼ばれている。
新型コロナウイルスが蔓延するようになってから、妹たちはなかなか移動がしづらくなった。
特に石川県に住んでいる妹は私と同じく病院に勤務する臨床検査技師。
コロナ渦となってしばらくは人口に比例して感染者も多い都市部に行くことは職場で禁止されていた。
『2人とも帰ってこれるんやね』
スマホの画面を叩く。
早々と既読が付き、返信が来た。
『今年は京都先に行くの?』
『去年先に行ったから、今年京都は後かな?』
結婚してから年末年始は京都にある夫の実家と、大阪にある私の実家双方を行脚するのがすっかりルーティンとなっていた。
毎年絶対こちらが先と決めず、交互に行くようにしていた。
『旦那と話しとくね』
『オッケー』
『姉さん、桃鉄大会しよ』
『スイッチ持ってきて』
『りょーかい』
そうして一旦ラインを止めた。
「もう年末か……」
毎年呟いている気がするが、12月は早い。
師走と言うだけあって、残り1か月かと思っていたらあっという間にクリスマス。
そして年末がやってくる。
 
帰宅してきた夫と年末年始の日程の話をした。
「うちの兄貴のとこも、今年は後半に行こうとしてたみたいやから、ちょうどええんちゃうかな」
「じゃ、前半でうちの実家、後半京都で決まりやね」
我が家の前半は12月31日夜から1月2日の朝まで、後半はそのまま移動して1月3日の夜まで。
双方の両親と妹たちに連絡を入れる。
こうして前半は大阪に、後半は京都に帰ることになった。
 
私の実家の年末年始は毎年まさに食道楽である。
年末はてっちり鍋と年越しそばを囲み、元旦の夜はカニ鍋とおせち料理を囲む。
父は料理人。
毎年、父お手製の棒鱈とエビの煮物が楽しみで仕方ない。
合間に近所にある神社に初詣に行く。
コロナが蔓延してからは屋台の出店が禁止されるようになってしまったが、そこは屋台がたくさん出店する。
冬の屋台は甘酒やおでんといった体を温めるものも増える。
ベビーカステラ、りんご飴も捨てがたいが何より一番好きなのが“たまごせんべい”だ。
全国区だと思っていたが実は関西独特の屋台だと知ったのはつい最近。
えびせんべいにお好みソースを塗り、そこに天かすと目玉焼きを乗せマヨネーズをこれでもかというぐらいにかける。
お店によって味の違いがあり、それもまた楽しみの1つ。
家に帰るとこたつに入って餅を食べながら、妹たちとモノポリー大会や桃鉄大会を開催する。
まさに食べては寝る。
そんな生活だ。
大晦日と正月はゆっくりと食道楽の生活を送り、2日は初売りへ出かける。
とはいえ初売りに出かけるのは母と妹たち2人。
出不精の父と私は家でゆっくりゴロゴロと過ごす。
バーゲンには心惹かれるけれど、人の多さにぐったりするのは面倒。
まさに昔流行った“干物女”そのものだった。
 
夫の実家は対照的に正月早々に初売りにすぐ出かける家系だ。
一家で近くのショッピングモールに出かけ、行った先でフリータイムとなる。
フリータイムを終えて合流するとたくさんの福袋を抱える義両親。
祖父母に年始のプレゼントを買ってもらい嬉しそうな甥っ子姪っ子たち。
そして家に帰ると待っているのが高級牛肉。
京都出身の夫と結婚するまで、出汁や京野菜、おばんざいといった薄味の和食のイメージが強かった京都。
実は京都1世帯当たりの牛肉消費量が毎年全国でトップを争うほどに多い。
それもそのはず。
但馬(神戸)牛、近江牛、松坂牛と言った関西の名高い牛の山地に囲まれた地の利もある。
そんな事情も知らずに初めて夫の家で年末年始を過ごすことになった時、
「さぁ、お肉を買いに行くわよ」
「え? お肉ですか?」
「そう、お正月はお肉を食べないとね」
と義母と肉屋に向かい、牛肉を求めてたくさんの人が長蛇の列を作っていた光景は未だに強烈に残っている。
そしてその肉がステーキとなってドーンと夕食に出てくるものだから圧巻である。
正月はもちろんだが、とにかく買い物に行く。
家や土地が違うだけで年末年始はこうも違うものだなと感じた出来事でもあった。
 
だが正直実家を行脚するのは慌ただしい。
日数分の着替えとその他諸々の準備、家を空ける準備、双方に持って行く手土産。
年末年始は道路も混むから早めに移動をしなければならない。
まとまって休める機会なんて少ないんだからと思ったこと露知れず。
ただ久しぶりに会える人たちがいる。
私にとっての妹たち、夫にとっての兄。
そして両親たちにとっては子供たち。
年末年始の準備は行く側も迎える側も準備は大変だけれど、その喜びは大きい。
そんな行脚でばたばたするので、私たち夫婦は30日を忘年会としていた。
この日は家にお正月飾りを飾り、2人で食べきれる分のおせち料理を作ったり、録画してたまっているバラエティ番組を見たりゆっくりする日。
今年は近所の晦日詣にでも行こうかと話していた。
ただ例年と違う展開を迎えることになった。
 
「さ、寒い」
夫が震えながら起きてくる。
「どうしたの?」
「関節が痛い……」
顔色も悪いし、いつもととにかく様子が違う。
「熱、測ってみな」
「38度……」
「あらら……」
 
発熱していた。
運悪く年末年始。
開いているのは救急外来のみ。
そしてかけてもかけても、電話が繋がらない。
開いているところに繋がったと思いきや、
「今日の枠はもういっぱいなので受診はできません」
と言われてしまう始末。
それでもと電話をかけ、1時間後なんとか隣の市の発熱外来の予約を取り付けることが出来た。
それでも朝に電話してとることが出来た枠は夜の枠だった。
 
“年末年始の行脚は中止だな”
 
そう判断して今度は双方の両親や妹たちに連絡をした。
3姉妹のLINEグループは大阪へと近付く妹たちが盛り上がっていた。
『もうすぐ新大阪よー』
『姉さん早いな、私今名古屋』
『着いたら551行こうかな』
『夫、発熱した』
『え』
『あちゃちゃ』
『コロナか?』
『38℃超えてるからコロナかインフルか』
『あらまー』
『今年は残念ながら隔離年末年始やわ』
『ビデオ通話でカニ配信したげるね』
『おい』
と盛り上がる妹たち。
「大丈夫なの? あんたも、もらわんように気を付けや」
「うん、落ち着いたらまた行くわ」
両親にも冷静に連絡する。
夫の両親からも
「恵理香さん、うつらんように気をつけてね」
と労いの言葉をかけて頂いた。
とりあえず一通りの報告を終え一息ついた。
そして買い物がてら、診察の時間まで横たわる夫の周りで遊びたがる息子を連れ出して外に出た。
 
「今年は最後にとんでもない年末になったな」
 
そんなことを思いベビーカーを押しながら、夫と行こうとしていた晦日参りに出かける。
近頃はお正月に神社を参拝しても屋台はほとんど無くなってしまい、なんとなく寂しい初詣だなと思っていたが、行動制限の撤廃された正月。
明日から本格的に始まる年末年始に向けて本格的に屋台の準備が始まっていた。
組み立てられていく屋台を見て、
「あぁ、年末年始っぽい」
と懐かしさを感じた。
 
神社から帰る道も同じだった。
地元の銘菓を売っている店にはいつも以上に手土産を求めてたくさんの人が並び、スーパーに行けば帰省してくる人たちを出迎えるためのオードブル料理やカニ、高級肉といった豪華な食材が大集合している。
多くの客が迷うことなくどんどんカゴに入れていく。
きっとこの人たちも誰かを迎えるんだろうか。
1年頑張った労いと、新しい1年をめでたく迎えることができるように。
夫は食欲がないだろうから、今年のおせちは簡単なものにしようかな。
いや、食欲がない時に目の前で高級食材を食べられたらさすがに腹が立つよな。
今日は夫と同じく私も雑炊を食べよう。
なんて思いながら買い物をした。
そうこうしていると夫から連絡が来た。
『コロナ、陽性やったわ』
目が点になった。
インフルエンザかコロナどちらかだろうなとは思っていたけれど。
 
「これは籠城を覚悟でちょっと買いこんどくか」
今のところ私に症状は出ていないけれど、最悪の事態を想定して動けるうちに動いておこう。
ふらふらになりながらも帰ってきた夫を寝室に入れ、水分補給にポカリスエットを渡す。
ペットボトルの蓋を開けて飲む気力もないぐらいにぐったりしている。
出産のときにお世話になったペットボトルストローがまた大活躍することになるとは正直思っていなかった。
 
 
こうして、息子と二人隔離生活がスタートした。
いつも何気なく過ごしていた年末年始はあっという間に終わりを告げた。
家でゆっくり過ごす年末年始。
本を読む時間もゆっくりとれるし、たまった動画も消化していくにはぴったり。
なんとなく望んでいたはずなのに、どこか物足りない。
ガキの使いやあらへんで!が今年も放送されないからだろうか。
いや、まだ私には孤独のグルメが、五郎さんがいる。
東西お笑い合戦も残っている。
ただ何となく気乗りしない。
 
そうだ。
 
今は心から新年を喜ぶことが出来る状態ではないからだ。
軽症とは言え、新型コロナウイルスに罹ってしまった夫。
隔離生活。
自分も発症してしまう可能性だってある。
コロナに限った話ではない。
新しいを迎えることが出来ない人もいる。
喜ぶことが出来ない状況の人もいる。
誰かのために働いている人もいる。
いつも通りの年末年始を過ごせるということは、かなり幸せなことなのだ。
 
大晦日、今年は一人静かに孤独のグルメを楽しんだ。
そしてそのまま東急シルベスターコンサートを見る。
除夜の鐘中継を見るのもいいけれど、なんとなく日付が変わった瞬間はめでたく迎えたい。
 
ふと夫が起きてきた。
「年越しの瞬間は見ておこうかなと思って」
「体調どう?」
「少しましにはなったかな」
「よかった」
「最後の最後にえらい年になってもたな」
「これだけ最後っ屁を食らったんだから、来年はいい年になるんじゃないかな」
「そやな」
 
そして新年を迎えた。
初日の出とともに、しっかり私もコロナウイルスを発症した。
1日2日の記憶はほとんど無い。
救いだったのは2歳の息子は発症することもなく、毎日元気にエビカニクスというダンスを踊りプラレールで遊び倒していたことだ。
そんなこんなで我が家は例年通りの年末年始を過ごすことはできなかった。
だからこそ知ることが出来た日常のありがたさ。
2023年の年末年始は例年通りに過ごしたいものだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
小田恵理香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

大阪生まれ大阪育ち。
2022年4月人生を変えるライティングゼミ受講。
2022年10月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に加入。
病院で臨床検査技師として働く傍ら、CBLコーチングスクールでコーチングを学び、コーチとして独立起業。クライアントに寄り添う日々を過ごしている。
7つの習慣セルフコーチング認定コーチ。
スノーボードとB‘zをこよなく愛する一児の母でもある。

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2023-01-18 | Posted in 週刊READING LIFE vol.201

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